2009年10月8日木曜日

微笑みの降る星


台風一過の午後、招待券をいただいていたカメラマン・長倉洋海氏の写真展『微笑みの降る星~ぼくが出会った子供たち~』(三越日本橋本店ギャラリー)を見にいってきた。
長倉氏はフォトジャーナリストとして40カ国以上の紛争地の修羅場をくぐってきた人だが、いつしかそのファインダーを戦火の中に、また貧困の中に、けなげに生きている子供たちに向けることが多くなってきたという。今回の写真展はその子供たちのあふれる笑顔や、厳しい日常の中での喜怒哀楽の姿を撮った作品を中心に“紛争地の子供たち”、“アフガニスタン・山の学校”“子どもたちの大地”“ザビット一家 家を建てる”という4つの章建てで構成されている。

長倉氏とは1982年、創刊間もないT誌の特集で仕事をお願いしたことがある。その年西ベイルートのシャティーラキャンプで起こったイスラエル兵の難民虐殺事件の現場から戻ったばかりの時期だった。そのとき見せていただいた息をのむような紙焼き写真の数々を前に衝撃を受けるとともに、長倉氏の温和な語り口に凄く違和感を抱いたのを覚えている。その後、エルサルバドルやアフガニスタンをはじめ世界中の紛争地で子どもたちの笑顔をもう一つのテーマにしていくのを、後になってあのときの温和な人間像を思い出して妙に納得した。戦争という人類の災厄をみつめるそのまなざしの先には、それでも生きていく人々の命の力強さ、子供たちの眼の中に残された希望の光、そういうものこそが氏の撮ることのテーマだったのかもしれないと。

今回の展覧会に展示されている子供たちも、みな今この時間を同じ星のうえで、ともに生きていることを実感させられる。紛争地のがれきの中、辺境の山間地の厳しい環境下、貧困や未開の大地の上で、子どもたちとその家族たちはただひたすら変わらぬ日常を生き続けている。どんなひどい世の中であったとしても明日はくるんだとでもいうように涙の後が乾いた顔に、白い歯がこぼれる。ヒンヅークシ山脈のとある村にできた学校で、雪を踏みしめ、雪解け水の急流を越えて登校する子供たち、ようやく平穏な日々が戻り瓦礫から家を再建するコソボの子沢山の一家、エルサルバドルで、南アフリカで、ブラジルのアマゾン流域で、フィリピンで写真の中から子供たちが微笑み、歓声が聞こえてくる。今日よりもいい明日を信じて。
そして世界のなかの日本の中の東京の午後、彼らの笑顔に救いと力を与えられた自分がいる。

長倉さんの仕事に改めて心からの賛辞を送りたい。

●長倉洋海写真展『微笑みの降る星~僕が出会った子どもたち』
日本橋三越本店新館7階ギャラリー
10月12日(月 祝日)まで

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