2014年7月30日水曜日

すべてなげうって旅に出たい気持ちをそそられる

 
ジェレミー・アイアンズ主演、ビレ・アウグスト監督『リスボンに誘われて』(2012年ドイツ/スイス/ポルトガル)の試写を六本木のアスミックエース試写室で鑑賞した。まさにタイトルに誘われて、観たかった作品である。
原作はスイスの作家パスカル・メルシエの「リスボンへの夜行列車」(早川書房刊)で、世界31カ国で翻訳されたベストセラーということだ。
 
物語はスイス・ベルンの初老の高校教師ライムントが自殺を図ろうとしていた女性を救うことから、100冊限定で出版された「言葉の金細工師」と題された本と遭遇。そのページをめくるや一言一句に魅せられてしまい、その足ですべての仕事を投げうって列車に飛び乗り、本の物語の舞台となっているポルトガルへ作者にまつわる人々の足跡をたどる旅に出る。
そこには70年代ポルトガルのサラザール独裁体制を打倒したいわゆるカーネーション革命前夜の緊迫した時代を舞台に若者たちの切ない青春の傷跡が浮かび上がってくる――。

“自分が選ばなかった人生”に思い...をはせるようになる、われわれの世代にとってはちょっとセンチな気分にさせる内容。構成上ご都合主義的な展開もちょっと気にはなったが、個人的には2004年に行って魅せられた場所リスボンが舞台というだけでもう大満足。バイロ・アルトの石畳の坂道とチンチンと音を立てて走る路面電車、海のようなテージョ川の陽光、アルファマの路地に立ちこめる鰯を焼く煙、ナザレの海岸と箱庭のような白き街並み、映画を見ながら色々と思い出してしまった。
 
登場人物たちの青年時代を演じるジャック・ヒューストン、メラニー・ロラン、アウグスト・ディールという若手役者陣もさることながら、爺さん婆さんたちが素晴らしい。主演のジェレミー・アイアンズ以外にも彼に心寄せる中年眼科医マルティナ・ゲデックはじめ、トム・コートネイ、クリストファー・リー、ブルーノ・ガンツ、レナ・オリン、シャーロット・ランプリングというシニアの欧州オールスター出演は見ごたえ満点。
 

2014年7月18日金曜日

ちょっとビターな台湾版「ジュールとジム」


ワールドカップの昼夜逆転の日々も一段落、先日、ひさびさに映画館に出向いて台湾映画『GF★BF』(2012年 原題=女朋友、男朋友 監督/楊雅 を鑑賞。
1985年、いまだ戒厳令下にあった台湾・高雄の男子高校生2人と女子高校生の、約25年の愛情の交錯を描く、ちょっとビターな物語である。
いわば『突然炎のごとく』、『冒険者たち』のような男二人と女一人の典型的なプロットなのだが、台湾の映画でよく取り上げられる同性愛がこの3人の関係をより複雑なものとしている。
かつて台湾に駐在時によく耳にしたのは“台湾は兵役があるので”という理由から社会的にホモセクシャルな関係が確かに多いように感じたが、特に映画や、文学においてもよく取り上げられる。
この映画の主演の一人張孝全(ジョセフ・チェン)は何年か前の『花蓮の夏』でも、男同士の性的シーンを演じていたが、今回もこの経験を?買われたのか、親友役の鳳小岳(リディアン・ボーン)相手に繊細な恋心と秘めたる激情を巧く演じていた。
よって、正確には三角関係とは言えないものの二人のミューズ的存在であるヒロインの桂綸鎂(グイ・ルンメイ)が男勝りの性格であることが、三人の友情(愛情)の均衡を保つファクターになっている。

この映画のもう一つのポイントは台湾現代史の「時代性」である。物語の始まる85年という戒厳令末期(87年に解除)の蒋経国強権政治にほころびが見え始めた時代、李登輝政権による民主化への道に伴う90年の学生運動(野百合運動)などが、当時の若者たちが激動の台湾でどう生きたのかという歴史体験を再現しているのだが、学生運動後の挫折、社会での成功のためにそれぞれが価値観が変わっていく様子などもほろ苦く心を打つ。
85年の高校時代に夜市で「民主」や「フォルモサ」というような禁署扱いの反体制派の雑誌をこっそり売って小遣い稼ぎをしたり、森進一の「港町ブルース」を原曲とした「誰来愛我」の劇中での使い方だったり、高校生たちの部室に松田聖子のポスターが貼ってあったり、日本語をはやり言葉で使ったり日本との強い影響も細部まで忠実に描いて時代の雰囲気を作っているのも感心させられる。

個人的には『藍色夏恋』(2002年)の鮮烈なデビューが記憶に刻まれている桂綸鎂の演技派女優としての成長に目を奪われた。実際もう30歳を迎えるそうで少女の面影を残しつつも成熟した大人の色香を感じさせる。この作品で2012年の金馬奨最優秀女優賞を獲ったのもうなづける。また監督の楊雅喆(ヤン・ヤ―チェ)は『藍色夏恋』の助監督だったそうで少女のころからの彼女との長い付き合いゆえ、その魅力を巧く引き出すことができたのだろう。今後彼女の作品を追っかける楽しみが俄然広がった

 



2014年7月15日火曜日

ドイツ戴冠!やがてホイッスルは鳴り熱狂の日々も終わる




ほぼ1カ月にわたって熱戦が繰り広げられたブラジルW杯は、ドイツの優勝で幕を閉じた。

アルゼンチンの堅い守備からなんとかドイツの壁を打ち破ろうと仕掛け続けた健闘ぶりは賞賛に値する闘いだったが、集団としての完成度の点でドイツは一歩リードしていたし、控えの選手も含めた戦力の均衡(どの選手が出てもレベルが落ちない)によって、やはり最後は順当な勝利だったのかもしれない。

大会自体を振り返ると準決勝、3位決定戦のホスト国ブラジルの惨敗で、ちょっと水が刺された格好だったが、GLから含めて各国の高いぶりは凄く面白かったし、最後まで目が離せない名勝負が続いた久々に面白い大会だった。
北中米カリブ勢の健闘、ベスト16までの南米勢の強さ、オランダの攻撃力、スペインのまさかの敗退。素晴らしいGKたちの排出、ハメス・ロドリゲスらニューースターの誕生...肝心の日本代表の見るべきところなき試合を除いて、世界のサッカーの趨勢がどう変わろうとしているのかが刻一刻と目の前で目撃できたのではないだろうか。

ドイツの戴冠から一夜明けて、なんだか祭りの後の寂しさが募ってくるのだが、新生日本代表のアジアカップも来年早々にオーストラリアで行われるし、再来年はフランスで欧州選手権が開催される。早くも日程を調べたりそわそわ落ち着かない。リオでオリンピックも開催されるし(スタジアムの建設、開催反対運動含めてこれは未確定なことが多すぎるが)また、イパネマ海岸をまたそぞろ歩くのもいいななんて思い出した。
仕事はさっぱりで、旅費はどうするんだと、現実に立ち戻ると嫌になってくるが、まあ、W杯ロスを解消するには次の楽しみを夢想するに限る。

それにしても日本代表の立て直しはどうするんだろう、次期監督の就任含めて、考え直さなければいけない問題はあまりにも多い。




 

2014年7月8日火曜日

週間呑みアルキスト6.1~6.30




●6月3日
ワールドカップに臨む日本代表が、アメリカ・タンパのキャンプ地にてコスタリカ代表とテスト戦。午前中の中継ということで、会社は午後からと決め込む。先制を許したものの、結果は3-1とスコア的には快勝。だがやはり取られ方が良くない。DF陣の不安を抱えたまま本大会突入せざるを得ないのがつらいところだ。点を取られても取り返せばという哲学はもっと強力な得点能力の裏付けがなければ、まあ本大会の強豪には通用しないだろう。夜は『明治屋2nd』から新宿の『t's bar』というコース。

●6月4日
夕方から、横浜ベイシェラトンの『sea wind』でラグビーライターのLさんと打ち合わせ。Lさんはなかなかラグビー界の現状に対して熱い意見の持ち主で、2019年のワールドカップ日本開催へ向けてのラグビー界の取り組みの内実に警鐘を鳴らす。ラグビー協会の壁に掲げられた「早明戦で満員の国立」の写真、サッカー協会の壁に掲げられた「空席でガラガラの国立」の写真。この対比はなかなか面白かった。成功事例に学ぶのか、失敗事例に学ぶのか、どちらに成果が上がったのかは一目瞭然だ。

●6月5日
生憎の荒天ではあったが、ワールドカップ観戦本のスタッフ打ち上げを新宿の居酒屋『犀門』でささやかに行う。サッカーや出版の話で遅くまで盛り上がる。階下のアイリッシュパブ『HUB 新宿南口店』でFJ氏、TM嬢と延長戦。

●6月7日
朝から、日本代表の最後のテストマッチであるザンビア戦をテレビ観戦。点を取ったり取られたりのスリリングな展開で、最後は大久保のファインゴールで4-3で決着をつけた。仮想コートジボワールということなのだろうが、ザンビアと違うのはドログバ、ヤヤ・トゥーレ、ジェルビーニョと段違いに得点能力が高いこと。仮想敵に勝って喜べるほど簡単な相手ではないことを肝に置くべきだ。

●6月9日
この週からB社の電子書籍の入稿が続く。週末からはブラジルなのに終わるのかどうかちょっと心配。

●6月13日
この日の早朝、いよいよワールドカップが開幕。ブラジルがクロアチアに3-1と快勝。開幕戦でジャッジを担当する栄誉を授かった西村主審は、ブラジルのFWフレッジの自作自演っぽいファールを認めPKを与えたため紛糾。試合をさばく方のプレッシャーもいかばかりか?まあこれでクロアチアの対日感情が悪くならなきゃいいのだが。ライターのFJ氏とB社K誌の最終打ち合わせ。翌14日には大体めどがつきそうだが、こぼれた分の対応を依頼。ブラジルからの連絡用にとポケットWiFiのレンタル確保に奔走するが、どの社ももう在庫なし。まあ直前に手配してもブラジル用の在庫なんか数が知れているので当たり前なのだろうが。ただ先行で入っている人からの連絡によるとホテル等の通信環境はまあまあ問題ないレベルとのこと。

●6月14日
前回優勝国スペインがオランダに1-5で大敗する衝撃的な展開。深夜0時から翌朝まで3戦連続っていうのも観る側としては辛いものがある。眠れない日々のスタートである。

●6月15日
ブラジル行きの荷物のパッキングをしながら、早朝までずっとテレビ観戦。コロンビアはギリシャを一蹴、やはり前評判通りの強さ!死の組となったD組の草刈り場と目されたコスタリカが、なんとウルグアイに勝利という番狂わせ、続くイングランド対イタリアがイタリアが辛勝。この組の今後の展開に目が離せなくなりそうだ。そして荷物の整理出発準備も完了し、朝10時から日本対コートジボワールの大一番。本田の先制弾で雄たけびを上げるものの、後半ドログバ投入から立て続けに2点取られ逆転負け!でがっくり。早くも前途が相当厳しくなってしまった。この代表チームには守りきって勝つだけのポテンシャルがないだけに本当につらい。
夕方に成田到着、JAL004便にてNY経由、AA便にてリオまでほぼ30時間のフライト。

●6月16日
NYでトランジット中に、かつてツアーで一緒になったことのある音楽会社勤務のT氏に声をかけられる。ほぼ一緒の旅程なので、良い道づれに出会えラッキー。フランスやアルゼンチンの結果が気になる。午前中にリオのホテルへ到着、しばらくチェックインを待つ。T氏とやはり日本人サポのKS氏と早速連れだってリオ散策。イパネマ海岸、コパカパーナ海岸と歩き、アントニオ・カルロス・ジョビンゆかりの『ガロ―ダ・ジ・イパネマ』を覗き、『ヴィニシウス・バー』でドイツ×ポルトガル戦を観ながら一杯。夕食はリド広場のシュハスカリヤ『カへドン・リド』でシュハスコ三昧。

●6月17日
ポンジ・アスカールの現地ツアーに乗ろうとしたが集合場所が遠いので断念。リオの旧市街地区を歩き、老舗の高級コスメショップ『グラナード』を冷やかしたり、旧大聖堂やチラデンチス宮殿などを巡る。。ブラジル料理のビュッフェ『パパフィナ』で昼食、しばらくすると街は一斉に店じまい。気がつけばうるさいぐらい道路でバッタものの代表Tシャツを売っていたあんちゃんもすべていなくなった。みんな午後からのブラジル戦に備えているようだ。こちらもホテルに戻ってブラジル×メキシコ戦を部屋でビール飲みながら観戦することに。ブラジルは難敵メキシコにてこずりスコアレスドロー、ブラジル人たちの嘆息が聞こえてきそうだが、負けて暴動になるよりは良かったのかも。夕食に出ようと思っていたらT氏がファンゾーンのPBから戻ってきていわく、"市内はどこの店もしまってますよ”とのこと。ということでホテルに宿泊している日本人のグループの人たちとホテル(「リオス・プレジデントホテル」)のレストランで急遽懇親会に。メニューはイタリアンだったが味はどこがイタリア?という代物。量も多くほとんど食べ残すことに。まあ、これも地元ブラジル戦ゆえ、仕方なしか。

●6月18日
念願だったマラカナンスタジアムのスペイン×チリ戦をナマ観戦。ホテル近くのカリオカ駅から地下鉄で一本。期待にたがわぬ素晴らしいスタジアムである。かつての20万収容という時代からは大分スリムになったがそれでもやはり何とも言えない威容を誇る。試合は衝撃のスペイン0-2の完敗!無敵艦隊の落日を目撃してしまった。ホテルに戻って荷物をまとめるとこの日のうちにレシフェに移動である。11時のレシフェ行きGOL航空最終便は2時間ディレイして、やっと出発。4時間余りのフライトで早朝レシフェに到着、ほうほうのていでホテル『インテルナシオナウ・パラシ』へチェックイン。

●6月19日
早朝到着時には気がつかなかったが、ホテルは海岸が目の前でなかなかロケーションはいい。
海を眺めながらの朝食も気持ちがいい。午後からは夜のナタールでの日本×ギリシャ戦観戦のため長距離バス移動が待っているため、同行のT氏やリオで知り合ったOD氏、OB嬢、OM嬢、KT嬢らと近くのスーパーで水や食料を調達。休む間もなくナタールへ向かう。バス中では爆睡。気がつけばナタールのエスタジオ・ダス・ドゥナスももう間近とのこと。休憩で停車したショッピングモールのフードコートで腹ごしらえ。いよいよわが日本代表決戦の地に向かう。試合はエースストライカーのミトログルガ前半で退き、相手が警告2枚で一人減るという絶好の好機がやってきたにもかかわらず、本田は不調だわ、香川はスタメン落ちするわで攻めあぐね続け、結局なすすべもなくスコアレスで終了。地元のブラジル人たちも全員応援してくれたのに日本のグループ突破はほぼ可能性がなくなった。帰りのバスで再びレシフェへ。落胆と疲労で声も出ず。

●6月20日
フリータイム。この日はレシフェで行われるイタリア対コスタリカ観戦か、世界遺産オリンダ地区の観光ツアーか迷ったが、せっかくここまで来たのだからとOM嬢、KT嬢らとオリンダを巡る。素晴らしい景観と現存する古い街並みデ、なかなか素晴らしい場所。カーニバル(三大カーニバルの一つ)の時期はこの静かな地区が人波で埋まるとのこと、いつか来ることがあるだろうか?夕食は『ポンティオ・シュハスカリア』で各国のサポーターとともに日本人グループの懇親会。もう翌日は日本への長い帰国の旅である。

●6月21日
午後にレシフェからサンパウロへ向かい。そこからNY経由でふたたび長い長いフライト。サンパウロの空港でドイツ×ガーナの激戦を観戦。サンパウロの空港からNYまではラッキーにも英語が堪能なブラジル美女と隣り合わせ、しばらくつたない英語でサッカー談議。

●6月22日
機中泊。日付変更線を越える。

●6月23日
JL005便で映画を5本鑑賞しつつ夕方成田へ到着。帰宅後オランダ×チリ戦、カメルーン×ブラジル戦テレビ観戦。寝る間も無し。

●6月24日
午前中爆睡。昼過ぎから出社。ひさびさの『明治屋2nd』で一杯。深夜4時から日本の最終戦。メンバーを落としたコロンビアに勝ちさえすればなんとか決勝トーナメントへの道もあったのだが、その期待も前半終了間際の岡崎の同点弾まで。後半から本気を出され今大会ブレイクしたハメス・ロドリゲスにちんちんにされあえなく敗退。ザックジャパンの4年間が同時に終了した。

●6月25日
家呑み。ナイジェリア×アルゼンチン、エクアドル×フランスほか。

●6月26日
家呑み。アメリカ×ドイツ、韓国×ベルギーほか。

●6月27日
『明治屋2nd』から『t's bar』。ブラジル話。

●6月28日
家呑み。ブラジル×チリ、コロンビア×ウルグアイ。ブラジル薄氷のPK戦勝利。

●6月29日
実家に立ち寄り。家呑み。オランダ×メキシコ、コスタリカ×ギリシャ。熱戦続く。

●6月30日
家呑み。フランス×ナイジェリア、ドイツ×アルジェリア。まだまだ続く。