2010年10月25日月曜日

台湾電影とともに始まった今年の東京国際映画祭


東京国際映画祭が開幕となって、今年も「アジアの風」を中心に仕事とのスケジュール調整しながらのせわしない映画鑑賞の1週間が始まった。
とはいえ、とても観たい映画がすべて見られる時間の余裕もなく、作品によってはチケットが入手困難(昔は楽勝だったのに)なものも多いので、まあテーマ的に興味のありそうな作品を選んであまり負担のないようにスケジュール立てしている。昨年は会期前半に台湾に行っており観れた本数も少なかったのでことしは少し頑張って合計で9本観る予定である。

特に今年は「台湾電影ルネッサンス2010美麗新世代」と題して、台湾の若き才能の話題作6本が特集上映されるので気合が入ったが、『熱帯魚』の陳玉勲監督が久々メガホンとって参加しているオムニバス映画『ジュリエット』と『藍色夏恋』の桂綸鎂主演の『台北カフェストーリー』はチケットが取れず、台湾映画の名匠を追ったドキュメンタリー作品の『風に吹かれて』はスケジュールが合わなくて断念した。特に『風に吹かれて』は観たかったがあらためてどこかで観る機会があればと切に思っている。

24日の映画祭2日目から六本木に通う日々が始まったが、チケットが確保できた上記の台湾映画特集から立て続けに3作品を観ることになり、いきなり台湾色の強いスタートとなった。
オープニングの23日、グリーンカーペットイベントの際に中国代表団から国名表示に関してお定まりの横やりが入り、ビビアン・スーをはじめ台湾の明星たちが晴れの舞台に立てなかった。聞けば中国政府サイドは知らなかったようで中国側の団長である江金監督のスタンドプレーだったらしいが、この国際センスに欠ける大陸映画人の強圧的かつ愚かな振る舞いからせっかくの国際映画祭のお祭りムードに水をさされたのは本当に腹立たしい。
というわけで、個人的にはのっけから台湾映画に圧倒的な贔屓感情を持って作品に接することになったわけだが、まあ今回の映画祭での大陸作品は関連イベントの東京・中国映画週間の方に集中しているので(今回はスルーした)、先入観と色眼鏡で作品を観ずに済んだのでかえって良かったのかも。


しょっぱなは今年度の台湾内での動員記録を作り、ジョン・ウーらの巨匠も絶賛したというふれ込みの『モンガに散る』(鈕承澤監督)。モンガとは漢字で“艋舺”と表記する。言葉の意味は“小舟”ということらしいが日本統治前の台北の淡水河船着き場周辺で現在の萬華周辺の場所を指す。
萬華は最近では華西街観光夜市で賑わう観光客おなじみの場所だが、かつては公娼街を擁するやばい地区だった。『モンガに散る』はその萬華を舞台に、1986年、町の地回りの黒道になった若者たちの義兄弟としての友情と裏切りという青春群像を描いたもの。阮經天、趙又廷、鳳小岳といったイケメン華流明星の出演はもとより、戒厳令解除前の時代を描くというノスタルジックな感情を刺激したのだろう、なんとなく台湾でヒットする要素が揃ったのはよくわかる。
映画的には『グッドフェローズ』、もしくは『チング』といったアウトローを描いた作品と同系色だが、特に地縁に根差した台湾独特の黒道世界がホーロー語といういわゆる台湾語(閩南語に近い)の世界観で展開する極めて“台湾的”な設定である。よって外省系、もしくは大陸から新たに進出してきたかと思われる北京語しか話さない新しい黒道の流れとの対立構造が派生していく必然があって、古き良き庶民の守護者たる侠客もんが跋扈する時代が過去のものとなって行く過程をよく表現していたと思う。
時代の背景と言えば、兵役前は国外に出られなかった哈日族以前の80年代の若者たちの風俗(黒道少年たちのヤクザスタイルはともかく)、ディスコに集まる若者たちがどんな曲で踊っていたかとか、女の子たちのファッションとかにも興味があったのだが、以前この世代の友人の台湾女性から“松田聖子が大好きで聖子ちゃんカット真似すると不良呼ばわりされた”と聞いていたので、このあたりのディテールも鳳小岳の彼女役の少女などのハマり具合に笑ってしまった。
また阮經天はじめ、出演者たちのキャラも際立っていてそれぞれの役どころについ思い入れてしまう熱演ぶりであった。
ただし、鈕承澤監督が役者出身(映画の中でも対立するヤクザ役を好演)ということもあるのだろうか、観客への笑わせたり、泣かせたりのサービス過剰の演出表現で、せっかく面白いストーリーの興をかえってそぐ結果になってしまったのがちょっと残念。


2本目は女性監督の卓立監督の『ズーム・ハンティング』。テレビドラマ「ザ・ホスピタル」に出演していた張鈞甯の映画初主演作品で、女流カメラマンと女流小説家の姉妹が対面のマンションの一室の男女の情事を偶然撮ったことからミステリー仕掛けのサスペンスドラマが始まって行くという展開。スタイリッシュかつセクシャルな作品ということなのだろうが、まあ話の仕掛け自体はさして新しい感じもしないしビックリするような展開があるわけでもない。個人的には自分がかつて住んでいたあたりの光景に非常によく似ている住宅街の様子や、テイクアウトのカフェなどの街かどの情景、台湾のマンションの無粋なたたずまいが懐かしくて話に集中するより、ロケ地の推量とかに気を取られてしまった。主演の張鈞甯はあまり好みのタイプではなかったのだが、映画終了後のティーチインで本人に接すると、そのチャーミングなたち振る舞いに一気にファンになってしまった。まあ収穫もあったということで。




3本目は薄幸の少年を主人公にした『4枚目の似顔絵』(鍾孟宏監督)。父と二人暮らしだった10歳の少年が父親の死とともに、今は再婚している実母のもとに引き取られたが、新しい父からは余計者扱いされる。そんな孤独な少年に半端ものの青年と不思議な友人関係ができていくというストーリー。子供の虐待という日本と共通した社会問題を扱いながらも、抒情的な台湾南部の田舎の風景や色々なタイプの大人たちとのエピソードを交えてペーソスあふれる映像に引き込まさせられてしまった。子供と動物を主人公にしたものはカタい、とよく言うが、この作品の主役を張った畢暁海(ピー・シャオハイ)君の発掘と起用が大きいのは確かで、目力のある彼の素の演技は今年の台北映画祭の主演男優賞に輝いたのもうなずける存在感だ。ネタばれになってしまうが、彼が描く絵がドラマの進行のチャプタ―になるととともに大きな意味を持つわけなのだが、4枚目の似顔絵は書き始めるところで映画は終了する。それが彼の将来がどうなっていくのかを観客に思い描かせるという4枚目となる仕掛けになっている。トリュフォーの『大人は判ってくれない』のストップモーションあたりにインスパイアされたのかと思っていたが上映後の監督のティーチインでは、“本当は書かせた絵が気に入らなかった”とかでちょっと肩透かしを食らってしまった。とはいえ、なかなか静かな映像表現も見事で、台湾社会の今日的な問題性もしっかりと訴えているあたりにも共感を持てる作品であった。

というわけで、今年の映画祭は頭から台湾映画に付き合わされたが、なんといってもどの作品からも作り手のモチベーションを感じさせられるのが嬉しい。いろいろ問題のある映画祭ではあるがこういう新しい才能と出会える機会があるのはなんとも得難いものがある。

2 件のコメント:

ask さんのコメント...

ビビアン・スーがたんかを切って記者会見に出たとかいう話もtwitterで話題に。(すごい、かっこいい、いうほどかとも思いますが)こんな感じですた。

>ビビアンすごい! RT @ilovekaychen @simmmons 而且徐若瑄超有guts!中台雙方各自開記者會說明立場,但台灣團一直保護藝人不讓他們出來面對中方和媒體,怕他們被迫選邊站將來可能被封殺,但徐若瑄一聽說中國團代表是江平就說沒關係她之前在中國就被江平封殺過,她沒在怕,叫其他人留在休息室她一個人出去代表台灣!超有種!

秋山光次 さんのコメント...

まあ、台湾側が我慢してくれて大人の対応してくれたので中国代表団総引き上げみたいな事態は回避されたんでしょうけど、本当にチンピラのいいがかりみたいな輩に唖然です。映画祭主催者サイドは台湾側にもっと感謝すべきでしょう。
我們熱烈支持!徐若瑄、加油台湾!と言ってあげたいですわ、ホンマ。