2010年6月20日日曜日

歴史的な惜敗


ワールドカップE組セカンドレグ、日本はグループ最強の敵オランダと対戦した。
まさに国際大会でのフル代表同志として戦うのは初めて、ガチンコのオランダにどこまで通用するのか、日本が本腰を入れて世界を目指したここ20年の成果が試されているといってよい歴史的対戦だったと思う。

ガチンコとはいえ相手の主力アリエル・ロッベンを怪我で欠いたのは、日本DF陣の大きな脅威が少なくとも30%は負担が減った行幸だと思うが、それにしても現在のサッカー界の最高峰を行くチームであることに変わりはない。

カメルーン戦の勝利で、メディアも、テレビで浮かれる若いサポーターと称する連中もにわかにオランダにもし勝てば、というような論調まで出だしたが、正直そんな甘い相手ではない。特にカメルーン戦までの日本代表チームの出来を考えると、上向きになったとはいえ3点以上の点差をつけられて惨敗は必至なのではと内心覚悟をしていた。それぐらいチームとしての伝統と経験、スキル、フィジカルすべてにおいて差があるのは少しサッカーを知っている人間なら容易に理解できたはずである。

オランダ自体も組み合わせが決まって今日までの間の星勘定で、日本からは勝ち点3は固いという前提で動いていたはずだし、首脳陣や選手たちの日本評も試合前の外交辞令に過ぎず楽勝ムードでいたことは間違いない。実際昨年の親善試合では、ちょっと手こずったが終わってみれば3-0の楽勝だったという事実も、イメージの端からぬぐえないのは当然だろう。

しかし大会前、結果が出ぬまま本番を迎えた日本代表の危機感は相当なものであったはずだ、メディアの論評もさることながら、この大会で何も成果を残せないまま終わってしまえば、それこそ日本サッカーのここまでの歴史を逆戻りさせることにもなりかねない。選手たち自らもそんな重圧の前でやるべきことは何なのかチームとして再確認するとともに、大会直前で苦肉の策で試したシステムが機能したことによって、絶対的エースであった中村俊輔をベンチに下げ、最近までスタメンだった内田も楢崎も中村憲剛もベンチを暖めさせ、それでも団結してひとつの集団として戦う意識がベクトルを同一方向に向けさせたのだろう。
その結果が、堅く守る、サボらないで動き続ける、機を見て積極的にカウンターを狙う、ということを徹底し試合の内容は決して美しくはなかったもののカメルーンとの緒戦に勝利を収めるという、最高の結果を勝ち取っていたのである。

オランダにとっては、前回の親善試合での対戦と南アフリカに来てからの日本とは一味違っていることは、試合が始まってからすぐに気がついたかもしれない。日本の相手の良いところを終始消しにかかる堅守とときに両サイドから松井、大久保が長友、駒野と連携してチャンスをうかがう姿勢に、圧倒的にボールを支配しながらもなかなか思うように決定機を作れずにいる。こんなにバックパスでボールをまわすオランダを見るのは初めての経験だ。確かにオランダは攻めあぐねているし、嫌がる戦いを日本は意識してかどうかやっているように見える。

前半を失点ゼロに防いだ日本は、気がついてみるとポゼッションは圧倒的に差がつけられているがシュート数がむしろ相手を上回った。モハメド・アリがかつてジョージ・フォアマンに見せたロープ・ザ・ドープといった感のある乾坤一擲の戦いぶりが効を奏していると思っていいのだろう。

そして後半、日本もひょっとしたら、先に点を取れるかもしれないといった、希望的観測すら生じ始めつつあったが、やはり体力的な問題もあったのだろう、徐々にバックラインが相手のプレッシャーに下がり始める。セットプレーからファン・ぺルシーにわたったピンチになんとか身体を張るものの、スナイデルにセカンドボールを拾われ目の覚めるような強烈なミドルを決められてしまった。ジャブラニの変化もあったのだろうがそのボールスピードゆえ川島はセーブしきれなかった。岡田監督は前線の交代でなんとか勝ち点を拾おうと岡崎、玉田を投入したが、やはりこの代表チームの得点力ではオランダのゴールをこじ開けるには力が不足していた。これがやはりオランダとの埋めようの無い差である。

0-1の最少得点差の敗北。勝ち点は0という事実しか残らなかったが、しかしながら大会のグループリーグの生き残りにおいては大きな意味を持つ1敗である。次のデンマークがオランダ同様容易ならざる欧州の強豪であることは確かだが、お互いのオランダ戦とのスコアで優位に立った結果、引き分けでもグループ2位の芽が出てきたからである。カメルーン戦、オランダ戦の戦い方から見て、勝ち点を取るのはまったく考えられないことではないからである。
“自信がついた”インタビュールームで語る各選手たちの表情は疲労困憊した敗者のそれでなく、悔しさに満ちた表情であることが最大の収穫であるように思う。
彼らは意識してはいなかっただろうが、実は日本サッカー史上、この敗戦は歴史の逆行の危機を踏みとどまっただけでなく、新たな歴史の行き先を決定付けることになる可能性に満ちた戦いであったのではないか。

まだワールドカップのベスト16に向けた決戦が控えているし、メディアははやくもこの試合の評価よりグループの星取に関心が移ったのも仕方がない。デンマークの戦力分析もいっせいに喧々諤々始まりだした。
しかしながら長く日本のサッカーと付き合ってきた身として個人的には、昨夜のオランダとの0-1の惜敗は、後年語り継がれることになる戦いであったと、ひそかに思っているのである。

そう、でもサッカーはこれからも続く。
デンマークとの本当の意味での決戦が待つ。さらに次の試合も日本代表の栄光の歴史を刻む戦いであって欲しいと祈るのみである。

2 件のコメント:

ask さんのコメント...

攻撃や守備のアイディアのいくつかは選手発信では、というブログ、tweetを散見します。

トルシエのときもコインブラのときもあった
ようですから、今回もあって当然かも。
うまくチームが熟成しているようで…
俊輔という犠牲!?はありましたが。

02のトルコ戦みたいに監督がチビらなければ
いいのですが。あと高地のスタミナも心配か。

秋山光次 さんのコメント...

イングランド練習試合、カメルーン戦の一か八かが成功しなけりゃ釣男とかがブチ切れてフランスみたいになったかもね。

しかし2大不人気監督も今のところ明暗分けてますなw