2008年12月8日月曜日

現代史を描いた2本のドラマを観て感じたこと

週末2本のテレビドラマを観た。両方とも戦争をテーマに取って現代史を描いた長時間スペシャルドラマである。

一本目は6日土曜日にテレビ朝日で放送された『男装の麗人~川島芳子の生涯』。清朝の粛親王の王女として生を受け、日本人の大陸浪人・川島浪速の養女となり満州国建国の影で暗躍し、戦後漢奸として処刑された女スパイの一生を描いたもの。
原作は村松友視の同名著作で、村松の祖父にあたる作家・村松梢風が当時川島芳子との交友を通してしたためた実録風小説を題材にとり、彼女の数奇な運命をたどっていくという内容。主演は芳子役に黒木メイサ(晩年は真矢みき)。掘北真希(李香蘭)、仲村トオル(甘粕正彦)、中村雅敏、平幹二郎、高島政伸、吹越満といった豪華な配役である。現代史ものを制作する場合はオープンセット等に金がかかると聞いたことがあるが、日本、満州、上海と舞台が点々とするだけに、テレ朝もかなりの力を入れたのだろう。ただし、内容の方はなんだか駆け足で芳子の生涯を説明的にたどるのみで深みが全然感じられない。時代に翻弄される悲劇の女性の内面を描こうとするのだが、肝心の時代の描き方、雰囲気がちゃっちいので女性像自体も浅薄なものになってしまった感がある。
よもや会社の企業的な姿勢ということもないのだろうが、日本及び傀儡国家・満州国と中国との歴史認識が単純に一元化されてしまい、女真に端を発する清朝と漢民族国家としての中国の相克を日本対中国というようにごっちゃにしていて、川島の存在の意味が全く判然としない。まあ、民放のエンタテイメントにそこまで求めるのも酷かもしれないが、かつて民放でもテレビマンユニオンが手がけたように製作者としての理念、歴史の真相をできるだけ極めたいという熱みたいなものが無いと、現代史ものなんかやめておいたほうがいいだろう。まあ、黒木メイサのチャイナドレス姿は結構「萌え」るものがあったので、それなりにお楽しみはあったんだけどね。

もう一本は7日日曜のNHKスペシャル枠で放送された『最後の戦犯』。これは実際にBC級裁判の横浜法廷で最後の戦犯として裁かれた油山事件の被告・左田野修氏の手記を基にした小林弘忠著『逃亡<油山事件>戦犯告白録』をドラマ化したもの。戦犯ものは現在中居クンのリメイク映画『私は貝になりたい』の大宣伝で変な脚光の浴び方をしているが、個人的にはつい最近、帚木蓬生の長編小説『逃亡』を読んで圧倒されてしまっていたので、そういう意味では戦後の戦犯容疑者の潜伏事例にすごく関心がありタイムリーなものとなった。
主人公に最近の日本映画界で独特の存在感を放ち人気上昇中のARATAを起用したのだが、逃亡下のスリリングな緊迫感や焦燥感、心理的な葛藤や懊悩をよく演じきっていたように思う。超縦割りの日本の軍の命令系統で捕虜虐待の実行為者となった現場の兵を、勝った側が非人道行為を理由に一方的に裁くことができるのか?また、戦争に積極的に加担した日本の警察機構や一般の庶民が、戦犯とされた人間に対して手のひらを返す資格があるのか?ドラマは全編を通して常に問いかけ続けていく。東京裁判史観を右へ習え的なムードで批判する昨今の風潮の中でNHKの看板で正面から戦犯問題を取り組むにはなかなか根性が必要だっただろう。
さらには巣鴨プリズンの同房に朝鮮人戦犯を登場させ国家の狭間で浮かび上がった矛盾を提起するなど、製作者サイドの意欲的な取り組みは大いに評価できる。制作はNHK名古屋だが、ここの局は『中学生日記』や『ながらえば』とか、昔から社会派もので頑張っていたよなあ。

別に民放だからNHKだからと見方を変えるわけではないが、戦争に翻弄される人間像というテーマで見比べたときの質的な差は大きい。戦争の記憶が風化していく時間の経緯のなかでどれだけ現代史の実相に迫れるのか?作り手側の世代がぐっと若くなっていくなか、セットや配役に金を賭けるだけでは歴史が持つ意味まで表現はできない。膨大な資料、情報をこつこつとあたり、原作者やモデルとなった人間にどれだけ近づけるかという熱意、志というものが大前提なのだ。

0 件のコメント: