2016年11月3日木曜日

東京国際映画祭 終わりよければ…

第29回を迎えた今年の東京国際映画祭(TIFF)。今年はのっけからチケット販売のシステムトラブルという「事件」があって、一時はモチベーションが大きく下がってしまったが、それでも6作品ほど観ることが出来た。


1本目は台湾映画『ゴッドスピード』(原題・一路順風 鍾孟宏監督 許冠文、納豆主演)。麻薬取引の運び屋をやっている冴えない若者が、ブツの引き渡しでタクシーを使って台湾の南部の田舎まで出かけることに。何をやっても中途半端なチンピラ青年(ナードウ)と、タクシー(強引に乗せられた)の風采の上がらない運転手(許冠文)との奇妙なドライブが始まる。ダメダメな二人のはずまない会話がなんともいえずに可笑しい一方で、麻薬取引現場の黒道連中の裏切り、殺戮といったハードな場面が同時に進行する。一路順風とはいかぬアクシデントの発生で二人も思わぬ危機に巻き込まれてしまうのだが。
鍾孟宏監督作品はTIFF3回目の出品。前回の『失魂』で、香港のカンフー映画のスターだった王羽(ジミー・ウォング)を起用したのと同様、今回はやはり香港のコメディ映画のスター許冠文(マイケル・ホイ)を起用。香港映画へのリスペクトだけでなく、まったく彼らの土俵外の役どころで、演技者としての実力を引き出すその演出ぶりは見事。また、ロケーション含め独特の世界観の映像表現は今回もいかんなく発揮されている。今後も注目していきたい監督である。


2本目は香港映画『メコン大作戦』(原題・湄公河行動)。TIFFでは人気の高いアクション映画の巨匠林超賢(ダンテ・ラム)監督の作品。主演の台湾人俳優彭于晏(エディ・ポン)とは3年連続のタッグだ。今回はアジア五カ国の麻薬特別捜査チームが、メコン川流域に根を張るゴールデントライアングルの麻薬王と対決する。まあ、ストーリー展開はともかく、ダンテ作品の魅力は何と言っても大仕掛けのアクションに次ぐアクション。カーチェイス、ヘリの銃撃戦、爆破シーン、水上のモーターボートチェイスと手に汗握る展開が目白押し。映画の醍醐味ここにありと今年も楽しませてもらった。



3本目は台湾のドキュメンタリー映画『四十年』 (侯季然監督)。1970年代、日本同様台湾でも学生を中心にフォークソング(民歌)がブームになるが、違うのは彼らの当時置かれていた政治環境。米国をはじめ同盟国の中共との国交回復に伴う国連脱退といった背景の中、戒厳令下の省籍矛盾を抱え、先住民族、客家とルーツを異にする国民の民族的なアイデンテティの模索、というような彼らが内包する社会的な問題を表現することが主眼だった。当時、彼らを積極的にラジオで紹介し続け“台湾フォークの母”ともいうべき(日本でいえば落合恵子的な)陶曉清のプロデュースのもと、四十年の歳月を経過した彼らが再集結したライブの模様を中心に、台湾現代史を音楽から切り取っていく。
いままで、不覚にも彼らの楽曲を知らなかったが、次回是非とも訪台の際にはCDを買い求めたいと思う。



4本目はこうの史代原作のアニメ映画『この世界の片隅に』(片淵須直監督)のワールドプレミア。クラウドファンディングで製作され、声優がのんこと能年玲奈ということでかねてから注目されていた作品でもある。もちろんこうの史代の作品自体のクォリティはいうまでもなく素晴らしいので、それが動画になってどれだけ原作の持つ世界を再現されているかが気になっていたのだが、片淵監督の手腕で原作に更に息を吹き込んだような気がした。主人公と遊郭の女性とのからみがあっさりと飛ばされていたことにはちょっと残念だったが、おおむね原作にも忠実で十分満足できる出来だった。改憲勢力が声高に国防を叫ぶきな臭さが漂う昨今、こういう作品が是非とも多くの若い世代に見てもらいたいと願うばかりだ。


 5本目は香港映画『シェッド・スキン・パパ』(原題・脱皮爸爸 監督司徒慧焯)。岸田賞を受賞した演出家佃典彦の戯曲が原案。呉鎮宇(フランシス・ン)、古天楽(ルイス・クー)のダブル主演。認知症の父親が脱皮しながら若返っていくというシュールな親子劇。スラップスティック的でいささかついていくのが大変だったが、それはそれでシニカル且つブラックなウイット満載で観る者を飽きさせない。芸達者のルイス・クーの熱演ぶりは凄い。



最後の作品となったのは1957年公開のハリウッド作品『黒い牡牛』(アーヴィング・ラッパー監督)。
当時吹き荒れた赤狩りの迫害にあった脚本家ダルトン・トランボがロバート・リッチの名で執筆し、見事オスカー原案賞を受賞したことでも有名な作品だ。孤高の映画評論家故小川徹の本でこの作品を知り機に成りながらもようやく観ることが出来た。メキシコの牧場を舞台に少年と子牛の心の交流を描いたものだが、名カメラマンジャック・カーディフの手に寄る闘牛シーンの撮影がすごい迫力。赤狩りへの反骨心を盛り込んだ、トランボの足跡をたどるためにも必見の名作ではないだろうか。50年代のシネマスコープ作品をTOHOシネマズ六本木の巨大なスクリーン7で観られる醍醐味も映画祭の魅力でもある。















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