2018年6月8日金曜日

軍中楽園



仕事が詰まっていてなかなか行けなかった映画だが、ユーロスペースで公開中の台湾映画『軍中楽園』(鈕承澤監督)をやっと観ることができた。


 舞台は1969年の金門島。当時は大陸反攻を夢見る蒋介石政権による対共産中国との最前線で対峙していた島で、まだ日常的(定期的)に砲撃があったりしていた「戦地」である。主人公の台湾本島から徴兵されて赴任してきた小寶(阮經天)は猛訓練で知られる精鋭部隊のフロッグマン部隊(海龍蛙兵)に配属されるが、泳ぎが苦手で落伍、831部隊へと転属になる。831部隊とは兵站部隊で専ら兵士たちの慰安を目的とする、『軍中楽園』と呼ばれる娼館の管理を担当していた。様々な過去を持ち流れ着いてきた慰安婦たちの中で、小寶は陰のある妮妮(萬茜)という女性と徐々に打ち解けていく。


 この作品では国民党兵士として内戦に強制され駆り出された外省系の下士官兵や、隊内暴力で逃亡する新兵、極限下における過酷な軍務などを背景に、娼婦として彼らの相手をする女性たちの哀しみなどを描いていくのだが、実際このような慰安所は1990年代まで存在していたという。台湾でも公然の秘密だった慰安所の存在を世に知らしめるということだけでもこの映画の持つ意味は大きい。第二次大戦中の日本軍による慰安婦問題は、韓国ほどクローズアップされてはいないが台湾でも補償問題は当然あって、ともすれば反日的な政治課題ともなっているのだが、この映画の公開で「日本の批判ばかりできないではないか」という声もあがっているとのことだ。


 戦後日本のRAA(特殊慰安施設協会)や韓国の洋公主(在韓米軍慰安婦)の例を引くまでもなく、軍と慰安所の問題はどこの国にも存在していたし、人権問題としてとらえなければならないことも確かなのだろう。しかし、当時その場で交錯した多くの男女たち、過酷な歴史の中で翻弄されてきた時代時代を生きてきた人々の背景の物語に思いをはせると、そこには語りつくせないようなドラマがあったはずである。鈕承澤監督は決して声高にではなく、そんな人々の物語の断片を淡々と拾い集め紡ぎ合わせ、逆に多くのことを考えさせられる作品に仕上げたように思う。


 1969年という時代背景も興味深く観ることができた、2000年代に2度金門島を訪ねたが、すでに観光地化され、軍の施設もそれなりに残っているものの、映画で表現されていた兵士たちであふれ、商店が賑わっているような光景は見ることはできなかった。その意味でも忘れられつつある現代史のタブーを果敢にテーマとして取り上げたこと、近年再び台湾海峡に緊張が高まっている現状とあわせて鑑みてこの作品は広く日本人にも観て欲しい。


 第51回金馬奬の主演女優賞を獲った萬茜(レジーナ・ワン)の美しさにはすっかり心奪われたが、助演男優賞の中国人俳優陳建斌の外省人老兵士の人間味あふれる演技も特筆ものだった。大陸の役者だそうだが国民党軍人を台湾で演じて何か問題にならなかったのだろうか?






 
 


 


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