2009年7月23日木曜日
シンガポールノスタルジイ
なにか日記の更新もままならぬほど仕事で忙しい日々。
と書けば、すぐに「いいじゃないの、儲かっていて」と言われるのだろうが(実際忙しいというと決まってこういうリアクションがある)、決してこれが儲かっているわけではなく、貧乏暇なしを絵にかいたような日々なのである。だいたい同じ貧乏ならば忙しくないほうが良いに決まってる。
とまあ、こういう時期に限って、余計な事に気を取られることが多いのも困ったものだ。
で、くそ忙しいのに古本屋に入って何の気なしに買った小説にハマったりする。
今回買い込んだ数冊のなかで特にハマったのが佐々木譲の『総督と呼ばれた男』(集英社)。ずっしりと重いハードカバーの大長編で、通勤時の満員電車じゃ重くって頁を開くことさえままならない(文庫になっているのに)。
ところが、これがすこぶる面白く、深夜終電で帰って早く寝りゃいいものを途中でやめられなくなって朝方まで読んで、翌日の疲労は寝不足で倍増という悪循環である。
佐々木譲といえば『ベルリン飛行指令』『ストックホルムの密使』とか戦前戦中に題材をとった国際的な舞台での壮大なスケールの冒険小説に冴えを見せる作家だが、この『総督と呼ばれた男』も戦前から戦後までのシンガポールの裏社会に君臨した日本人アウトローのお話。シンガポールを舞台にした佐々木の作品は『昭南島に蘭ありや』に続く第2弾だが、時代背景も全く同じ。ハリマオと呼ばれた実在のアウトロー谷豊が登場したり歴史の空気をそれなりに描いているのも佐々木の真骨頂である。好きなんだよなあ、この辺の時代。
初出が「プレイボーイ」誌の連載小説だけにあくまでエンタテインメントの域を出ないといったらそれまでだが、時代こそ違え自分自身2年にわたって住んでいた場所が舞台なので、その場面描写がリアルに脳内スクリーンに映し出され、主人公の一挙手一投足がまるでその場にいるような臨場感で迫ってきてしまいいやおうがなく物語に入り込んでしまう。
ドービィゴート、ボートキー、マレーストリート、カトン、ケインヒルロード、グッドウッドパーク、シービューホテル、ロビンソン百貨店、ケッぺル港…、おお!あそこか、あの辺りだよなあてな具合である。特に主人公が惚れる絶世の中国人美女の住んでいる屋敷がなんとエメラルドヒルロードだっただと?そこにオレの会社があったんだぜえええ!
住んでいた時は退屈極まりない街だったが、もう7~8年たってしまうと懐かしさにあふれてしまう。
あのこじゃれたショップハウス風のBARはまだ健在かしら、日本人御用達カラオケクラブで下手な日本語で歌っていたマレーの女の子は元気かなあ、小説の展開と合わせてとてもノスタルジックな思いにとらわれ妄想は広がる一方だ。
よし、この忙しさを超えたら、またシンガポールにいかねば!
とは思うもののすべてはいまの状況から逃避したいだけなのは百も承知、その時になって実際行くかどうかは定かではない(結局行かない公算が高いけど)が、いまはただただ、ラッフルズのあのやたら甘いシンガポールスリングに恋い焦がれる毎日である。
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