2012年5月19日土曜日
邱飯店の閉店に思う
直木賞作家で経済評論家の邱永漢氏が亡くなった、88歳だった。
氏は、後年すっかり金儲けの神様として経済雑誌で引っ張りだこになってしまったが、自分としては作家、文化人としての存在の方が心に残っている。
彼が、国民党政権に追われ焦躁の日々を送っていた頃を題材とした『濁水系』『香港』にはいたく感動したし、その当時の事情は『わが青春の台湾、わが青春の香港』(中央公論社)に詳しい。
台湾に駐在していた頃は、氏の経営する『永漢書局』によく日本の出版物を探しに行った。日本語学校はじめ台湾での氏の影響力に間近に接して以来、面識はないもののテレビや雑誌でお姿を拝見するになんとなく近しい気になっていた。
また稀代のグルメとしても知られているのは言うまでもない。伝説でもあるご自宅の「邱飯店」に機会があらば担当編集で著書の出版に関わり招待されることを夢見ていたりもしたが、もうそんなことを思い描くことも無くなってしまったのはさびしい限りである。
先日たまたま古書店で『母から娘に伝える邱家の中国家庭料理』(中央公論社)というムック本を買い求めていた。邱飯店のシェフである玉蘭夫人ただ一度きり出版されたレシピ本で、1980年の発行で写真こそ色あせてしまったものの、ページから料理の匂いが沸き立つような気がする好著だと思う。邱氏の波乱の生涯に思いをはせながら、このレシピ本の料理に挑戦してみたいと思う。
邱永漢氏のご冥福を祈りつつ。
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