27回目を迎えた今年の東京国際映画祭、今回はいつも楽しみにしている台湾映画が1本のみということで、気合が入らない。
今年から会場に日本橋コレドに出来たTOHOシネマズも使うことになって、毎年思うことだがまったくもって、映画祭的な雰囲気は皆無に等しい。おりしも六本木界隈はハロウィーンのコスプレに身を包んだ若い連中がそぞろ歩いており、そっちのほうがよっぽど「祭」っぽく映ってしまう。元々渋谷から六本木に会場が移ったのは、当時総合プロデューサーだった角川さんと森ビルの談合による結果だったと記憶しているが(真偽のほどは知らん)、なんとかならんのかね。
ということで、今年は最近になくチケットを入手したのは3本と寂しい結果になってしまった。
まず1本目は唯一の台湾映画『共犯』(張榮吉監督)。通学途中でたまたま同じ学校の女生徒が飛び降り自殺した現場に居合わせた三人の高校生たちが、その真相をつきとめようと行動するうちに思わぬ事態へと物語が展開していく、というサスペンスタッチのストーリー。いじめやSNSによる言葉の暴力、教師をはじめとする大人たちの無関心とか、台湾の高校生が置かれている問題が映画のバックグラウンドに描かれつつ、思春期の子供たちの揺れる心象に迫っていく。タイプの違った三人の主役たちも一人を除いて全くの素人だそうだが、なかなかキャラクターが巧く演じ分けられていたように思う。まあ作品から感じ取れることは見た者の解釈にゆだねられるということではあろうが、もう少し話の行く末が示すドラマ性があってもいいのかなと感じた。監督は前作の『光に触れる』でも色彩の取り入れ方に特徴があり、今回も緑の使い方に心理的な効果を盛り込んでいる。特別に評価をということではないが、まあまあ楽しめた。
2本目は香港の陳果監督の異色のSF作品『ミッドナイト・アフター』。旺角から大埔に向かう深夜バスに乗り合わせた17人が、高速道路を超えた瞬間に世界から彼らを残して無人の街にワープしてしまう。しかしながら彼らを監視する謎の人物が登場する中、彼らに一人ひとり原因不明の死が近づいてくる。とプロットを書くと、いかにも正当時空ものSFみたい(名作SF漫画「少年の町ZF」を彷彿してしまう)だが、そこは香港、しかも陳果ということで基本は笑えるギャグ満載で、ニヤニヤさせられつつ事件の展開に引き込まれていく。しかも乗客たちの個性が強烈過ぎて、また気のきいたブラックな笑いは秀逸。監督は絶対揺頭丸でぶっ飛んで撮影したに違いないと確信するクレイジーさである。終了後深夜の人っ気のない日本橋を歩きながら、このまま街から人間が消えてしまったら…と変な感覚を味わわされた。結構楽しめた。
3本目はハリウッド作品の『シーズ・ファニー・ザット・ウェイ』。ピーター・ボグダノヴィッチの10年ぶりの作品ということなので、見逃すわけにはいかない。ニューヨークを舞台にコールガールからスター女優になった主演のイモージェン・プーツがインタビューに答えながら、彼女がブロードウェイの演出家に見出され女優になれたいきさつが展開するロマ・コメ。オールニューヨークロケがなんとも素晴らしいのと随所に40~50年代の映画へのリスペクトに満ちたスクリューボールコメディへのオマージュ。一見、ウッディ・アレン調だが、ひいき眼かもしれないが粋さという意味ではより洗練されているようにも思える。こういう小粋な作品が撮れるのはハリウッドでももうそんなにいない。ボグダノヴィッチ組ということで久々のシビル・シェパードの出演もサプライズ。さらにサプライズだったのは監督本人が上映後のトークセッションにオーウェン・ウィルソンとともに登壇したこと。なかなかウイットに富んだチャーミングな老人という態ではあったが、ナマのボグダノヴィッチを間近に観れたのが、今回の映画祭最大の収穫であった。凄く楽しめた。
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