2011年7月6日水曜日
加油!中華代表隊
週末、久しぶり(1年半ぶり)に台湾に行ってきた。
今回は、酔狂にも中華足球隊(チャイニーズタイペイ代表)のブラジルワールドカップ予選の応援である。第2の故郷と勝手に思っている国の代表チームの試合である、これはいからいでかと思い立ってにわか球迷隊員(サポーター)とあいなった次第。
FIFAランキング165位の台湾にとっては、もうすでにワールドカップを目指す1次予選の挑戦がはじまっているのである。対戦相手は昨年のスズキカップ(東南アジア選手権)の覇者マレーシア、アジアの古豪である。ひいき目に見ても旗色が悪いのは明らかだ。なにせサッカーが好きだと言うと「サッカーは9人でやるんでしたっけ?」とマジに聞かれるような国である。自国のプロリーグでそれなりに熱狂するマレーシアはどうみたって明らかに格上である(といっても146位だが)。
6月29日にマレーシアのアウェイでファーストレグのオープニングマッチが行われ、わが中華代表隊は下馬評通り1-2で試合を落とした。それでもアウェイで1点取っての惜敗は大健闘だろう。貴重なのは敵地でもぎとったアウェイゴール1点(倍加算)である。先日の五輪予選での日本代表もあやうくこのアウェイゴール制でやられるところだった。
結果7月3日に行われるセカンドレグのホームでは1-0以上で勝てばマレーシアより総得点で上に行きめでたく1次予選は突破できる。ただし1点でも取られるととたんにハードルがぐんと上がるので何としてでも点は与えてはならないのは言うまでもない。
中華代表隊には満を持してこの日のために隠していた秘密兵器があった。ベルギーの1部リーグメヘレンでプレーする仏台混血のシャビエ・チェン(陳昌源)に急きょ国籍を与えて代表入りさせたのである。また香港リーグでプレーをする陳柏良、張涵とスペインリーグ2部サラマンカのユースに所属する周子軒という3人の「海外組」も呼び寄せ史上最強チームの構成をもくろんだ。果たしてその成果は上がるのか、サッカー不毛の国のけなげな挑戦に、もの好きな日本人サポのヴォルテージも上がる一方なのであった。
当日、キックオフ1時間前に主戦場である台北市田徑場には多くの台湾人青年が続々と集まっていた。皆この日のために代表スポンサーが配ったブルーの中華足球代表ユニを身にまとい、なかには青天白日旗を身体に巻き付けたウルトラスも散見する。女の子はなぜかメッシのレプリカやルーニ―のレプリカを着ている子もいる。なんだ、なんだ、けっこう隠れファンもいるんじゃねーか。バスケ脳しかないと思ってた連中だったが格好だけは一人前のフットボールの流儀に沿っているぜ。在台留学生を中心におなじみのタイガーカラ―のマレーシアサポもちらほら見受けられ、ここが台湾であることが信じられないような変わり映えである。それだけ、今回の代表歴代最強チームに多大な関心が集まっているのかもしれない。
台北市田徑場は2万5千キャパだが、入場無料とはいえすでに7割がたが埋まり、「中華隊!加油!」のコールが巻き起こっている。サッカーにこれだけ人が集まるのももちろん史上初であることは間違いない。
割れんばかりの拍手でゲームが始まったが、圧倒的な声援で完全アウェイのマレーシアは完全にビビりモード、というか慎重に引いて守っている。シャビエと陳柏良はさすがに存在感は大きく、またトラップとかパスの精度はお世辞にもうまいとは言えないが全員がエネルギッシュに走り回り、格上相手に試合を支配していて何度も好機を作る。しかしマレーシアの鋭いカウンターはやはり1日の長がある、開始4分でいきなりFKから先制弾を叩き込んだ。とられたらいけないのに~。はやくもこのゲームは3-1で勝たなければならなくなったぜ。一瞬気落ちした中華隊も気を取り直して再びシャビエ、陳柏良、張涵の3人を中心に気合が入ったプレーで攻めまくる。31分にマレーシアゴール前の混戦から張涵が押しこんで同点!ひょっとしたらひょっとするかもとわずかな期待が首をもたげ始める。
と、思ったのもつかのま前半40分にマレーシアのミドルが炸裂し、決定的な2点目が加わった。マレーシアは勝利を確信し喜びの輪が広がる。これで台湾は最低でも4-2にならなければならなくなってしまった。絶望的な2失点という事実が重く立ちふさがる。あ~あ…、場内も声が途切れため息が広がる。しかし、中華隊は何とか追いつこうと再び始まった大声援に煽られて精いっぱいのプレーが続く。そして終了間際ベトナム人主審の笛を味方につけラッキーなPKをもらい陳柏良が落ち着いて決め2-2の同点!となった。
あと2点! そして絶好のチャンスが後半17分に訪れる。中華隊の猛攻でエリア内で足がかかり再びゴール前でPKをもらったのだ。この天恵をキッカーの陳柏良はなんとはずしてしまう!こういうことだけはバッジョやジーコ並みだ。これで今度こそもうだめかと思ったが、この日の主審の虫の居所は相当マレーシアに対して悪かったらしく(けっこう遅延行為や不要なアピールが多かったからか)、後半30分になんと再びドリブルで持ち込んだ陳柏良がGKから足を払われPKをもらうという漫画のような幸運が訪れ、こんどはシャビエが慎重に決めた!3-2の大逆転!あと1点だ!
タイムアップのホイッスルが鳴ったとき両チーム全員が芝に倒れ込んだまま起き上がれなかった。この日の勝者は涙をのみ、敗者は薄氷の勝ち上がりで放心状態だった。
われらがチャイニーズ・タイペイ代表は、史上最高のゲームで、史上最大の観衆の前で、静かにそして早くもワールドカップの舞台に幕が閉ざされた。あのPKが決まっていれば、ロスタイムがもう少し長ければ…、それでも精いっぱい力を出し切ったことに選手たちは満足し、観客もサッカーの醍醐味を生まれて初めて体感したのではないだろうか、この国にとっては何かが変わる1日になったことは間違いが無い。
帰り際、スタジアムの近くの外国人御用達のスポーツバーに立ち寄り、からからののどを潤す生ビールを所望した。ビールを注いでくれた眼鏡美人の女性バーテンダーが、ニコニコ笑いながら早口の中国語で話しかけてきた。
着ているリバプールFCのポロシャツについて何か言っているようだが聞き取れなかったので「我是日本人、請説慢慢」(ゆっくりしゃべって)と聞き返すと、英語で「リバプールのでしょ!でも残念ながら私はマンチェスターユナイテッドのファンなの」とのたまう。まあ仇敵のファンであることはこの際許そう。この国もすこしは変わったようなことは確かなようである。いや~、わざわざ日本からやってきたかいがあった。眼鏡美人がお代わりを促す。
「今日は台湾も頑張ったよ。で、仕事は何時までなの?」
前宣伝もばっちり。
新装なった台北田徑場(台北フィールド)収容2万5000。
中華隊サポ続々詰め掛ける
いままでどこにいた?隠れメッシファン
大フラッグも用意
足球でこんな大観衆初めて観た
大健闘した代表に大きな拍手
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