2018年12月5日水曜日

三上真一郎さんのこと


俳優の三上真一郎氏が7月に77歳の人生を終えていたという訃報が発表されたのは先月のこと。たまたま積読の山の中に2001年に出版された生前の小津安二郎監督との交流を描いた『巨匠とチンピラ 小津安二郎との日々』(文藝春秋社刊)があることを思い出し、すぐ手に取って読み始めたら、これが実に面白かった。
晩年期の松竹小津組の様子が生き生きと描かれていて、最後の弟子として息子のようにかわいがられた三上氏ならではの日本映画界の巨匠の知られざる素顔、粋を絵にかいたような楽しいエピソード、周りを取り巻く映画の黄金時代を支えたキラ星のような男優、女優たちとの交遊が綴られている。そこに登場する映画人たちの大半がもう既に鬼籍に入り、チンピラ役者を自称していた最年少に近かった著者もついに亡くなられたわけなので、よく言われる「昭和は遠くになりにけり」が改めて実感させられてしまう。
三上真一郎と言えば『秋日和』『秋刀魚の味』という端役ながらも、ご本人にとっても宝物のような作品への出演が当然この本の骨格ともなっているのだが、個人的にはその後フリーになられた後の『仁義なき戦い』の新開宇吉役。『仁義なき戦い頂上作戦』の川田英光役の存在感のある演技が記憶に残る。「こんなもここらで男にならんと、舞台はもう回ってこんで」と若い小倉一郎を焚きつける狡猾な川田組組長のセリフは忘れがたい。晩年も貴重なバイプレーヤーとして活躍されていただけに、先日のあまりにもひっそりと報じられた訃報がちょっと寂しい。そう言えば『仁義なき戦い』の深作組ももう何人も生きている人たちが残っていない。
三上氏は日本酒は苦手だったそうだが、巨匠に進められるがままよく飲まされたという小津監督の愛した諏訪の銘酒「ダイヤ菊」も、昔はよく見かけたものだが、最近でも手に入るのだろうか?この年末は巨匠の愛した「ダイヤ菊」の熱燗をちびりちびり飲りながら、所蔵するこれらの作品のビデオを引っ張り出して、三上真一郎氏の若き日の姿を偲びつつ改めて見直してみようかなどと思っている。





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