今年の東京映画祭、たまたま仕事も暇だったのでいつものようにアジア映画中心に10本ほど観ることができた。期間中天気も悪く、なんだか例年以上に寒々しい印象。お祭り感がまったく感じられないのは残念。今は昔だが、一時の夕張映画祭が懐かしい。
で今回の鑑賞作品だが以下の通り。
1本目はハリウッドものの『パークランド―ケネディ暗殺、真実の4日間』(ピーター・ランデズマン監督/ザック・エフロン主演)。今年はケネディ暗殺から50年、JFKの遺児キャロライン・ケネディが駐日大使に赴任するモニュメンタルな年でもあるので、日本人にとっても1963年11月22日はとても忘れがたいのだが、その22日から4日間、実際の現場はどう動いたのかというドキュメンタリータッチの歴史再現映画である。これまでにも映画製作者の多くが挑戦してきた“真犯人はだれなのか?”という謎解きはまったく無く、あくまでもその時何が起こったのかを主眼においた作品である。緊急治療にあたった病院関係者の衝撃、犯人と目されたりー・ハ―ヴェイ・オズワルドの家族の苦悩、シークレットサービスとFBI、州警察の確執と責任回避工作、狙撃の瞬間をを撮影したアマチュアカメラマン、ザプルーダの困惑、などなど当事者たちの群像劇は当時のファッションや時代背景をうまく再現してあり、なかなか見ごたえはあった。当直医としてケネディの救命治療にあたった医師役のザック・エフロンが好演。
2本目は、英豪合作『レイルウェイ 運命の旅路』(ジョナサン・デブリツキー監督/コリン・ファース主演)。第2次大戦下、泰緬鉄道敷設工事に駆り出され虐待されたある英国軍捕虜が戦後深い心の傷を受けながら生きてきたが、当時の憲兵の生存を知り彼に会い向かい合うことでついには和解に至るまでの道のりを描く。これは実話をベースにしたもので以前この主人公であるエリック・ロマックスの著書を読んだことがある。映画ではコリン・ファースに加え、二コール・キッドマン、真田広之という豪華キャストということもあって、いまひとつリアリティにかけてしまったところもあるし、旧日本軍の一方的な戦争犯罪という視点はちょっと引っかかるものがあったが、役作り以上にコリン・ファース、二コール・キッドマンの中年期を迎えた枯れぶりが魅力的。原作同様KADOKAWAが配給、納得。
3本目はワールドフォーカス部門からタイ映画の『マリー・イズ・ハッピー』(ナワポン・タムロンラタナリット監督)。卒業をまじかに控えたタイの女子高校生の揺れる心情を描いた作品。実際の400本にもわたるツイッターのの文面とともにストーリーが進むちょっと実験的な試みが面白い。主役を演じる二人の女子高校生もだが、周囲大人たちがまたなんともいえないタイ独特のペースというか、良い味を出している。
4本目もワールドフォーカス部門で香港中国合作の『激戦』(ダンテ・ラム監督)。ドンパチアクションには定評のある監督が選んだ素材がリング上のバトル。聞けば香港・マカオは現在総合格闘技MMAが大人気だそうで、監督自らもファンを自認、いつか撮りたかったテーマであったという。かつて香港で八百長で追放され借金まみれの元プロボクサー(ニック・チョン)と、親の破産で無一文となった青年(エディ・ポン)がともに一攫千金と、自らの尊厳、愛する者たちのためにマカオの過酷なリングに挑戦する話。金網デスマッチの格闘シーンはド迫力で手に汗握る、名アクション監督の面目躍如といえよう。またニック・チョンと触れ合う孤独な母子との人間ドラマも泣かせる。香港、中華圏で大ヒットしたのもうなずける、これぞエンタテインメント、今回観た作品中一番面白かった一本である。
5本目からは台湾電影ルネッサンスという特集。今年は5本の新作に加え、候孝賢はじめとした台湾ニューウェーブの記念碑的作品となったオムニバス映画『坊やの人形』(83年)が上映される。その初っ端の作品として鑑賞したのが『高雄ダンサー』(何文薫/黄宇哲監督)。台湾の女流舞踊家と韓国の絵描きという二人の初監督作。早大の安藤研究室が共同制作として加わっている。ストーリーは高雄を舞台に幼馴染の男女3人のほろ苦い青春ドラマ。高雄の風景は個人的にはなかなか良かったが、いかんせんアマチュアの制作陣だけに人物設定もいまひとつでストーリーもいまひとつこなれていない。残念ながら日本でいえば自主映画の域を出ない作品に終わった感がある。
6本目は『Together 甜.秘密』(許肇任監督)。17歳の男子高校生の目を通して描く、父、母、姉のそれぞれの恋愛をシニカル、かつ温かく見守るストーリー。この作品も新人監督の撮ったものだがかつて楊徳昌ら大物監督の助監督をつとめた人で42歳にして初監督という苦労人である。そのせいか、馬志翔、李千娜といった台湾のベテラン実力派俳優も多く出演し映画に花を添えている。それはいいとして作品のほうは男女間の心の機微や人物の輪郭表現がいま一つ甘く、まあこんなもんかなというくらいの印象度。
7本目は『27℃―世界一のパン』(林正盛監督)。『浮草人生』『台北ソリチュード』と意欲作を発表してきた監督が9年ぶりにメガホンをとった作品。2011年度の世界コンクールで優勝した台湾のパン職人の一代記を描くサクセスストーリー。台湾はパンが美味くなかったのが駐在時代の記憶だったのでここ何年かの台湾のパン文化の変化にびっくり。映画自体は台湾っぽいべタな熱血青春もので、9年のブランクを少し感じてしまう出来に終わっている 。ただパンの発酵シーンなどパンが焼きあがる過程を、ここ何年か劇映画を離れドキュメンタリーを制作していたという監督らしく、リアルかつドラマチックに表現しているところはさすが。台湾のパン文化が日本と密接に関係しているのも成程と思わせられた。
8本目は『熱帯魚』『ラブゴーゴー』の鬼才・陳玉勲監督のこれまた16年ぶりの作品『総舗師―メインシェフへの道』。伝説の料理人を父に持つ少女の借金返済と老夫婦から依頼された宴席料理復活のためアイアンシェフばりのコンクールに挑む話。台湾中華料理を題材にしたコメディだが、仕掛けはなかなか大掛かりで笑いのツボも抑えているものの、以前の作品であったようなペーソスや風刺は感ぜられず単なるドタバタに終始したのはちょっと残念。やはりこちらもブランクが長すぎたのかしら。
9本目は3年前の本映画祭で『4枚目の似顔絵』で衝撃を与えた鐘孟宏監督の新作『失魂』。二重人格障害で他人となってしまい、新たな人格が凶暴なサイコパスに変わってしまった息子と、霧深い山林の山小屋で向かい合う老父。血しぶき舞うサイコホラー作品であるが、最大の話題は70年代の香港のアクション大スター、王羽(ジミー・ウォング)の主演。しかも難しい心理描写が要求される老人の役を見事に演じていて、今年の台北電影節の最優秀男優賞に輝いたという。霧がかかる山深き景色は不気味かつ美しいカメラワークで描かれ、見ごたえある作品であった。いま一つの作品が多かった今回の特集の中では唯一異彩を放っていたといえよう。
そして10本目の鑑賞作品となったのが1983年制作の『坊やの人形』。台湾の人気作家黄春明の短編小説を呉念眞が脚本におこし、「坊やの人形」(候孝賢)「シャオチの帽子」(曽壮祥)「リンゴの味」(萬仁)の三監督によるオムニバス。60年代台湾の庶民たちの日々懸命に生きる姿を描いたもの。DVDで何回か観たし、「リンゴの味」は小説も読んでいたが、改めてスクリーンで観て、60年代台湾社会の風景に(80年代に撮ったものの)心打たれる。今回の映画祭での台湾の出品作の中で、この30年前の作品がやはり秀逸なのは、この作品の素晴らしさを物語るとともに現在の台湾映画界の低迷を(『海角七號』などの興行的な大ヒットはあるが)指示している感じがして残念。しょぼい(国際)映画祭の中でもこれまで楽しみにしていた台湾映画だけに、来年に期待するとしよう。
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