2010年11月21日日曜日
週間呑みアルキスト11.1~11.21
●11月1日
かつての職場の後輩で現在はK社のデジタルコンテンツ部門を担当しているHR氏が、仕事先でたまたま小生の話になったとかで突然連絡があった。当時やはり同じ職場に居た大先輩のMK氏と一緒に会食することになり何年かぶりで大手町の居酒屋『素材屋』に集合し旧交を暖めることに。この人たちとは一時期シンガポールのビジネス含めて色々な新規事業に取り組み、出版の世界だけでなく様々な分野の人たちとアライアンスを組んだりしていた。新規事業の開発ということで失敗する案件も多く(というかほとんど開発できなかった)、日々面白くもあったが報われぬ苦労も多かった。HR氏もそんな日々を思い出したのか、現在の鬱積をぶつけたかったのか、まあ声をかけてくれたのはうれしい事である。現在はそれぞれ会社も変わってしまったがやはり話は古巣K社の話題となる。電子出版の流れの中でさらに新しい活路を拓かねばならない出版社のありように、わが身も含めて考えさせられる。
●11月2日
いつものようにKJ氏が来社。KJ氏は週に1回都心の病院で薬を処方してもらうために、そのついでで顔を出すことにしているそうだ。それがもうすっかり週の行事のようになってしまったようだ。偏食家のKJ氏からはいつも彼の得意範疇の蕎麦屋に誘われるのだが、こちらとしてもたまには趣向も変えたいので今回は沖縄風(?)創作フレンチの『東京アチコーコー』に強引に連れ込んだ。女性スタッフだけのこじんまりした店で居心地が良いし料理も美味しい。女店主もわざわざ笑顔で挨拶してくれ恐縮してしまう。軽くワインを1本あけた後いつものコースである『明治屋2nd』にハシゴ。KJ氏はここのマスターとボクシング談義をするのも神保町まで出向いてくる楽しみのひとつなのだろう。
●11月4日
サッカー少年の親のためのFK誌の企画打ち合わせで新宿富久町の和風ダイニング『然』へ。この日はYD編集長と女性サッカーライターのMKさんが同席。MKさんは日本代表やユースチームの記事を色々なメディアで発表し著書も何冊か出す活躍ぶりだが、デビューしたての頃はYD氏とともに現場取材でしごいたものである。当時は大学出たてだったが、もうすっかりアラフォーの姉御風に成長(?)している。サッカー業界の知人の話等ですっかり盛り上がってしまい終電にてあわてて帰宅。
●11月5日
急にめっきり寒くなり、いよいよ冬らしくなってきた。新宿三丁目で途中下車し『博多天神』のラーメンで腹ごなしし暖まった後、『T's Bar』で一杯引っ掛ける。この日もカウンターで隣り合わせた常連のEB社ST氏が1日に久々会ったHR氏に小生の話を振ったらしいのでその結果報告など。
●11月6日
『明治屋2nd』で知り合った神保町に働くオーバー40のオジさんたちとの会合で、大久保の『莫莫』に集合し早めの忘年会。この店は大阪を本店とする純関西風の串かつ屋で何十種類もの串揚げをコースで次々と出してくれる。つけダレのソースは一度づけが鉄則、みんなで四角いソース入れを囲むのもなんとなく楽しい。一串が小さいので楽勝と思っていたが酒も入り場も盛り上がるとなかなかヘビーになってくるものの何とか完食。普通だったら胃にもたれるところだが腹は一杯になったが油がいいのか不思議と平気。以前までは2次会で放歌高吟だったが景気も冷え込んでいることもあってこの日は静かに解散。店のテレビでちらちら見ていた日本シリーズが帰宅しても延長戦が続いていたのにびっくり。今年は中日×ロッテと地味なカードだがまれにみる熱戦で勝負の行方ふくめ面白いシリーズになってきた。
●11月9日
KJ氏の来社日。この日はKJ氏の好みに合わせて日本蕎麦で一杯やることにして、すずらん通り裏の高層ビルの1階にある『柳屋』へ。ここのカツ煮はなかなかに美味いが、KJ氏は色々なものを注文し自分はちょっと箸をつけるだけですべて残すのにまったく悪びれない。よって出されたものは残さず食べろと躾けられた当方がすべてたいらげさせられる羽目になる。春先にメタボ健診の食事指導のかいあって幾分か体重腹囲とも減らしたのだが、最近は再び以前の水準に逆行気味だ。特にカツ煮などは栄養士の先生が目を三角にして禁じる食品の最たるもの。今月末の健診がちょっと恐怖であるが、残すことの罪悪感には勝てる由もない。
●11月10日
K社の後輩のSB氏がひょっこり顔を出す。この週は何年かぶりに顔を合わす人が不思議と多い。SB氏も長く編集の現場に居たがこのたびの異動で書店営業に移ることになったそうである。その挨拶かたがた訪ねてくれたということで、せっかくなのでかつての職場仲間でもあったデザイナーのTK氏を呼び出し事務所の隣にある焼き鳥屋『ぼんちゃん』でこれまた急遽同窓会と相成った。
●11月11日
不思議な再会週はこの日も続き、大学時代の友人で現在は長野の別荘に引っ込んでいるED氏が突然来訪し、事務所の近所の和風ダイニングの『福の木』で会食。ED氏は先刻中国大連でビジネス話が持ち上がり、その可能性の話し含めて色々と話を聞かされまた協力を依頼される。尖閣問題で揺れる日中関係だが大連、旅順あたりの東北部では反日ムードは皆無で政冷経熱を地で行っているという。ED氏のビジネスも中国の富裕層に向けたものだ。かの国の勢いはどこまで拡大するのだろうか。
この日はさらにまだ20代の頃ともに仕事したことのある編集者のKJ氏と25年ぶりに会うにいたって偶然の再会の連続にちょっと怖くなる。
●11月12日
お世話になっているデザイン会社MM社が毎月定期的にやっているガレージを利用したバーベキュー大会に、今年最後の開催ということでT出版のO社長と連れ立ってお招きに預かる。曙橋の都心の一角でもうもうと煙を出してバーベキューというのも豪快というかなんというか。遠くでサイレンが聞こえると火事と間違えたんじゃないかとちと心配になる。台湾の駐在時代の中秋節で慣例となっているバーベキューで街中が煙に包まれる光景を思い出した。まあ都心でこういうイベントが出来る環境がちょっぴりうらやましくもある。
●11月13日
野球好きのT出版O社長とデザイナーTK氏とともに日本シリーズ第7戦までもつれて王者となった千葉ロッテがアジアの盟主の座をかけて、韓国シリーズの覇者SKワイバーンズと戦う日韓クラブチャンピオンズシップを観に東京ドームへ。昨年の長崎での開催以外、この大会は第一回目から皆勤賞である。昨年からスポンサーが降りたこともあって台湾、中国の参加が見送られるようになったのは寂しい限りである。ガラガラのスタンドで遠来のサポーターたちの一風変わった応援風景を見ながらビールを飲むのがオツだったのだが。
試合後所要のあるお二方と別れ、国立競技場でナイターで行われるサッカーのアジアクラブ選手権決勝に観戦のハシゴを決め込む。こちらは日本勢がすべて敗退し韓国の城南一和とイランのゾブ・アハンというシブ~イ対戦である。どうせガラガラだと思っていたら韓国側の動員で約3万の入りにビックリ。この時期のナイターは寒さでビールがちょっとつらい。
●11月16日
TN社NK氏と打ち合わせ後、引き続きパワーランチ。どうせ相手もちなので老舗の鰻屋『竹葉亭木挽町本店』を所望。昭和初期からの日本家屋の座敷で会席コースと思ったが相手の懐具合もあってテーブル席の鰻丼で妥協する。若干やわらか目に焼きあがった鰻とごはんの合わせ具合はちょっと上品すぎるきらいはあるがなかなかに美味しい。同じ老舗の『大和田』もすぐ近くに在るのでまたアウェイで打ち合わせの折には食べ比べを所望するとしたい。
●11月18日
T出版のO社長の事務所を訪問し、折からの広州アジア大会の野球準決勝日本対台湾戦のテレビ観戦を決め込む。いつもはビールを手土産にわが社を訪ねてくれるお返しに、今日解禁となったボジョレーヌーヴォーを1本買っていく。コンビニで買ったチキンナゲットをつまみにワインをちびちび飲みながら、アジア野球通のO社長の解説で試合を楽しむが、全員プロの台湾に社会人+学生代表の日本は善戦するも延長で惜敗。阪神のドラフト1位の榎田投手が見たかったがこの日は出番が無かった。来年はアジアシリーズが台湾で開催されるというらしいので是非とも現地観戦と行きたいところだ。
2010年11月14日日曜日
スポーツの秋満喫
毎年のことだが、11月中盤の週末はスポーツ観戦に出ることが多い。
今週末も大きなイベントが目白押しで、どの競技を観に行こうかと思案した。
13日は一昨年都立三鷹を選手権初出場に導き“三鷹旋風”を巻き起こした山下監督が新たに率いる都立駒場が、決勝に進出している高校サッカーの都予選の決勝、ドラフト組みの大学生が勢ぞろいする神宮大学野球選手権も捨てがたかったのだが、ここ何年か(昨年は長崎開催でさすがに行けなかったが)野球のアジアシリーズは欠かさず皆勤しているのでまずは恒例ということで千葉ロッテ対SKワイバーンズの日韓王者対決を勇躍観にいくことに。
自分の興味と巷の人気は必ずしも比例しないことも多いが、このアジアシリーズは最たるものでここ2年間は観客動員や経費の観点から採算が取れないことから冠スポンサーがつかず日韓チャンピオンチームだけの1戦勝負になってしまった。レギュラーシーズンの激闘の上、チャンピオンステージ、日本シリーズと続けば選手たちもいい加減休ませて欲しいというのが本音だろうが、野球という競技の国際的な位置づけをあげるためには国内リーグだけにとどまらず国際的カップ戦が重要なのは他の競技を見ても明らかである。こういう国際大会が花試合的に軽く扱われてしまうこと自体野球がドメスティックなローカル競技の域をなかなか出れない要因になっているだろうに。
今年もなかば客足はたいしたことがないと思って高をくくっていたが、先週地味なカードながら日本シリーズが7戦までもつれ込む激戦となった余韻が残っているためか、13日の東京ドームはシリーズを制した千葉ロッテのファンが続々とつめかけ一塁側内や指定席や外野席は売り切れで3万人を超す大盛況、いつにない盛り上がりにいささか驚いた。
ロッテもキャプテンの西岡、守護神小林宏がメジャー行きを希望しこれが日本での最後の姿になるのでロッテファンにとって観れば見逃せない一戦ではあるが、肝心のSK側はエースの金廣鉉を怪我で欠き、アジア大会の代表にも主力を持っていかれているので、いくら第2エースの門倉(中日→巨人)が凱旋先発を努めようともちょっと迫力不測は否めない。試合は清田のタイムリー、今江のホームランで案の定ロッテが危なげなく3-0で完封勝ちしてしまい、特にロッテファンでもないだけにいまひとつ面白みにかける観戦となってしまった。
ただし来年は台湾職棒球連盟主催で台湾での3カ国対戦が予定されているらしいので、そうなりゃ台湾での観戦ということになるのでこれはちょっと楽しみである。
試合終了後、同行の仲間たちが所要のため現地解散となってしまったので、時間がちょうど塩梅が良いのでその足で国立競技場で行われるサッカーのAFCアジアチャンピオンズリーグ決勝にハシゴすることにした。こちらの対戦はクラブワールドカップ出場権もかかっているのだが、今年は日本勢がすべて敗退していて韓国の城南一和天馬とイランのゾブアハンの対戦という日本人にはあまり意味のない対戦となってしまっていた。
こんなカードではよほど物好きか、団体で招待されている子供たちとかしか入らんだろうと思ってガラガラのスタジアムを想定していたが、あにはからんや城南サポーター中心にこちらも3万近い入り。城南は統一教会系企業がスポンサーなので動員にかけてはお手の物なのだろうが、数は少ないが在日イラン人・イスハファンから遠来のサポーターでイラン勢もにぎやかに気勢を上げていて意外な盛り上がりを見せている。
試合はスピードのある城南とテクニックのゾブアハンの真剣勝負で面白かったが、ポゼッション的に上回るも精度を欠いたゾブアハンの拙攻にも助けられカウンターから3得点した城南が3-1でアジアチャンピオンの座を獲得した。日本で観る外国のチーム同士の戦いもなかなか楽しめるものであるが、来年再来年はクラブワールドカップの開催地もUAEから日本に戻るので、是非日本のクラブがアジア代表となって欧州南米のナンバーワンチームに挑戦してもらいたいものである。
明けて14日の日曜日は、高校ラグビーの都予選の決勝。母校が2部落ちしてしまったので秩父宮通いもここのところめっきり回数が減ったが、昨年に引き続き高校生たちの熱き戦いぶりを応援しに午前中から駆けつけた。今年の第一代表の決勝は本郷と目黒学院の対戦。ここ何年か低迷していた目黒が久々に決勝にコマを進めてきた。伝統のエンジのユニフォームを見るのも本当に久しぶりだ。外国人留学生も交えて伝統の大型FWも健在だったが、試合運びに一日の長がある本郷にのっけから立て続けにトライを重ねられてしまう。後半は持ち直し五分以上の戦いぶりを発揮したが終わってみれば37-5で本郷が快勝した。
第二代表は国学院久我山対東京。こちらはいずれも昨年の予選優勝チーム同士。実力校のガチ対決に場内も盛り上がる。しかしながら常に先手を取った久我山が追いすがる東京に苦しみながらなんとか31-14で振り切った。しかし優勝した本郷も久我山も以前ほど絶対的な強さを感じない。確かに上手いしセンスも感じさせるがいまひとつ荒々しさに欠ける気がする。果たして正月の花園で東福岡や京都成章といった強豪にどこまで伍して戦えるのか気になるところではある。
秩父宮の隣の神宮球場では斉藤祐樹の早稲田が愛知学院と対戦していた、惹かれるものはあったがこの2日間のスポーツ漬けでさすがに生観戦はパス。帰ったら帰ったで女子バレー世界大会、ボクシングのマニー・パッキャオのタイトル戦と今度はテレビで気になる中継が待っている。Jリーグの結果も気になるし、あ、アジア大会もだし、そういやF1もあるんだよな。いや~忙しい!
2010年11月4日木曜日
東京国際映画祭後半戦
東京国際映画祭、今年のさくらグランプリ作品はニル・ベルグマン監督のイスラエル映画『僕の心の奥の文法』に決まった。映画ジャーナリストの人たちの下馬評ではルーマニア=セルビア=オーストリア制作の『一粒の麦』を本命視する向きも多かったようだ。自分が観たコンペティション作品の評価も気になっていたが、いずれにしろイスラエルやコソボといったある意味社会的に注目が集まる地域からの出品作に評価の目が向けられるのは仕方がないのかもしれない。『ブライトン・ロック』のようなサスペンス、しかもリメイクものはやはり選考的には不利なんだろうなと思ったりもする。もちろん自分が受賞作品自体を観ていないので論ずるにあたわないし、多くの映画人の共感をかち得ているということでそのレベルの高さを疑うものではないのだが。
確かに国際映画祭としては、カンヌやベネチア、ベルリン等に比べれば歴史的にも権威的にもメジャー感に欠けるが、今年のラインアップを観ているとなかなかユニークかつ意欲的な作品が多かったように思う。一般的には特別招待作品の目玉がいまいちで派手さに欠けたという不満もあるのだろうが、こういう世界の新しい映画の潮流に対して真摯に向かう姿勢が23年を経過して徐々に世界に浸透していけば、映画祭自体の存在意義もおのずと価値あるものへ向かってくるはずだ。
さて、今回鑑賞した作品の後半4本だが、再び「アジアの風」から3本、「日本映画・ある視点」から1本である。
まずはここ何年か「アジアの風」で大人気の香港の彭浩翔(パン・ホーチョン)監督の『恋の紫煙』。毎回趣向が変わった内容で楽しみな監督なのだが今回はライトコメディときた。
世界的な潮流の例にもれなく香港でも禁煙法で愛煙家が肩身の狭い思いをするのは同様だ。限られた喫煙場所に集まり一服することで新しい人間関係ができていくのは日本の職場でもよく聞くことだが、この映画でも色々な職場の愛煙家が一服つけに来る喫煙場所が主要な舞台である。同好の士が集まれば新しい人間関係ができ、男女がいればロマンスも生まれることだってある。そんなひと組の男女の出会いから紆余曲折をへて新しい恋が成就するまでを描いているのだが、テンポのよい(といってもたいしたドラマ性があるわけではないが)展開と、なんといっても他愛なくもおかしい会話の妙で観客を飽きさせない。“タバコは動くアクセサリー“というコピーがあったが、タバコというアクセサリーを基にしてこんな洒落た映画を1本作ってしまうあたりは、彭浩翔監督のセンスと手腕を感じざるを得ない。
香港に旅行するたびに現地の会社で働いている知人のところに立ち寄るのだが、あの会社の従業員もこんな会話しながら働いているんだろうかと思いを巡らしたり、主演の余文樂(ショーン・ユー)そっくりの台湾人と同じ職場で働いていたのでどうも映画の登場人物とダブって困ったりしたが、とても楽しく作品に没頭できた。
続いてはシンガポールの25歳の若手・廖捷凱(リャオ・ジェカイ)監督の作品『赤とんぼ』。海外で成功しシンガポールで個展を開くことになった女性画家が自分の高校時代の思い出を振り返りつつ自分を見つめ直すという設定で、2人の男の子とともに郊外の廃線をたどってオリエンテーリングしたときの昔の記憶が現在と交差しつつ物語は進行していく。今回の映画祭では最年少の監督ということだが、やはりインデペンデントというかアマチュア感がぬぐいきれない気がする。まあ、映画の実験的なトライアルで「やりたいことはわかるんだけど」というような大学映研の作品でよく見られるような独りよがりな空気感みたいなものがスクリーンから漂ってしまうんだよな。もっとも監督自体もシカゴの大学で映画を学んでいた留学生ということなのだが。
シンガポールの映画環境は確かに作家を輩出するようなメカニズムにはないことは、2003~2004年で現地で映像の仕事に就いたことがあるので身にしみて判っている。政府も金儲けだけではなく文化的な側面からも人材育成に力を入れ出しファンドを作ったりしてみてはいたがなにせ土壌が無い。自国作品を発表しそれをどこでどれだけの集客が得られるかと考えれば産業として根付くにはまだまだ時間がかかるのだろう。そんな中でもエリック・クーやロイストン・タンといった才能も台頭し、ここ何年かは商業作品としても評価されだしてはいる。このリャオ・ジェカイ監督がその一角に加われるのかどうかは、自分のやりたい映像表現の域で自分の自己資金だけで作品を「つくってみました」という世界から、もう一歩踏み出す必要があるのだろう。
映画の環境的な部分で、作品を生み出していくことの苦労を考えれば彼のような挑戦は、その心意気や良しではある。今後の作品に期待、ということか。
「日本映画・ある視点」に出品された作品から今回選んだ1本が、すずきじゅんいち監督のドキュメンタリー『442日系部隊・アメリカ史上最強の陸軍』。第2次大戦で合衆国に忠誠を誓い戦場に送られた日系兵士たちの足跡とその知られざる戦功と悲劇を、当時のフィルムと80半ばを超えた現在の老兵のインタビューからたどって行くもの。442部隊の兵士たちには今から20年ほど前に雑誌の企画で取材したことがあって、その時の強烈な印象は今でも忘れ難い。米国民としての自負と父祖の世代の出自=アイデンティティ、家族を収容所に残し、根強いレーシズムとそれを払拭するために血であがなった戦い。そんな宿命を背負って戦中、戦後を生きてきた人たちの苦難の歴史は、当時まだ若かった自分には大きな衝撃だったことを昨日のように覚えている。今回の作品に登場する老人たちを観るにつけ、あの時取材した人たちの消息を思い起こさせられる。取材時よりさらに高齢の域に達したあのときの人たちはまだ元気にしておられるのだろうか。
当時の取材のきっかけはNHKの大河ドラマ「山河燃ゆ」(原作・山崎豊子「二つの祖国」)であったが、せっかく日系米国人の歴史にスポットを当てながら、まったくしょっぱい日本人視点の娯楽作にとどまってひどく残念な思いがしたものだ(実際アメリカの日系社会からは抗議が殺到した)。そういう意味で映画的にどうこうでなく、彼らの真実の姿をドキュメンタリーで正面から向かい合った試みにまずは敬意を表したいと思う。
多くの犠牲を払ったボージュの森でのテキサス大隊救出やブリエア、ダハウの解放という歴史的事実も日本の若い世代にぜひ知ってもらいたいと思う。
すずき監督の次回作はMIS(陸軍情報部)の語学兵として太平洋戦線に赴いた二世兵士たちがテーマだという。これで一昨年の『東洋宮武が覗いた世界』と併せて日系米国人三部作となるそうだが、語学兵に関しても個人的に442同様にインタビューしたことがあり、彼らが日本兵の遺体から収集した手紙類の実物に接し涙したこともある。日系人を通して日本人を見つめ直す意味でも大きな意義があると思う。こちらも是非期待したい。
映画祭最後の作品となったのは黒澤明生誕100年記念の「KUROSAWA魂inアジア中東」という、黒澤に影響を受けたと思われるアジア作品のアーカイブからの公開で、台湾の巨匠・王童監督の84年の作品『逃亡』(原題名「策馬入林」)。時は中国の戦国時代、野武士が跋扈し村人たちから糧食を簒奪するという背景は確かに『七人の侍』に似ているが、黒澤と違うのは野武士サイドから物語が描かれていること。襲われる村が官兵を雇い、反撃された主人公たちは散々な目にあう。主人公は村から人質に取った娘を手籠めにするがいつしか心通わせる仲になったかと思えば手痛い裏切りにあう。野武士であるのもなかなかつらいのである。映画のラストでただただ無表情に主人公の野武士を追う殺し屋のような男の存在が、時代そのものの圧力のようで不気味だ。王童監督と言えば『稲草人』『無言的丘』『香蕉天堂』『紅柿』といった台湾近現代史を描いたものしか観たことがなかったが、今回の『逃亡』は見応えある一大武侠劇で凄く楽しめた。映画祭でのこういう特集上映はありがたい。
というわけでしょっぱなに不快な政治的アクシデントがあったり、期間中通じて悪天候に見舞われた第23回の東京国際映画祭ではあったが、仕事の合間を縫ってスケジュール調整に苦心したかいあって例年以上に手ごたえのある映画に出会え、楽しい時間を過ごせた1週間であった。
確かに国際映画祭としては、カンヌやベネチア、ベルリン等に比べれば歴史的にも権威的にもメジャー感に欠けるが、今年のラインアップを観ているとなかなかユニークかつ意欲的な作品が多かったように思う。一般的には特別招待作品の目玉がいまいちで派手さに欠けたという不満もあるのだろうが、こういう世界の新しい映画の潮流に対して真摯に向かう姿勢が23年を経過して徐々に世界に浸透していけば、映画祭自体の存在意義もおのずと価値あるものへ向かってくるはずだ。
さて、今回鑑賞した作品の後半4本だが、再び「アジアの風」から3本、「日本映画・ある視点」から1本である。
まずはここ何年か「アジアの風」で大人気の香港の彭浩翔(パン・ホーチョン)監督の『恋の紫煙』。毎回趣向が変わった内容で楽しみな監督なのだが今回はライトコメディときた。
世界的な潮流の例にもれなく香港でも禁煙法で愛煙家が肩身の狭い思いをするのは同様だ。限られた喫煙場所に集まり一服することで新しい人間関係ができていくのは日本の職場でもよく聞くことだが、この映画でも色々な職場の愛煙家が一服つけに来る喫煙場所が主要な舞台である。同好の士が集まれば新しい人間関係ができ、男女がいればロマンスも生まれることだってある。そんなひと組の男女の出会いから紆余曲折をへて新しい恋が成就するまでを描いているのだが、テンポのよい(といってもたいしたドラマ性があるわけではないが)展開と、なんといっても他愛なくもおかしい会話の妙で観客を飽きさせない。“タバコは動くアクセサリー“というコピーがあったが、タバコというアクセサリーを基にしてこんな洒落た映画を1本作ってしまうあたりは、彭浩翔監督のセンスと手腕を感じざるを得ない。
香港に旅行するたびに現地の会社で働いている知人のところに立ち寄るのだが、あの会社の従業員もこんな会話しながら働いているんだろうかと思いを巡らしたり、主演の余文樂(ショーン・ユー)そっくりの台湾人と同じ職場で働いていたのでどうも映画の登場人物とダブって困ったりしたが、とても楽しく作品に没頭できた。
続いてはシンガポールの25歳の若手・廖捷凱(リャオ・ジェカイ)監督の作品『赤とんぼ』。海外で成功しシンガポールで個展を開くことになった女性画家が自分の高校時代の思い出を振り返りつつ自分を見つめ直すという設定で、2人の男の子とともに郊外の廃線をたどってオリエンテーリングしたときの昔の記憶が現在と交差しつつ物語は進行していく。今回の映画祭では最年少の監督ということだが、やはりインデペンデントというかアマチュア感がぬぐいきれない気がする。まあ、映画の実験的なトライアルで「やりたいことはわかるんだけど」というような大学映研の作品でよく見られるような独りよがりな空気感みたいなものがスクリーンから漂ってしまうんだよな。もっとも監督自体もシカゴの大学で映画を学んでいた留学生ということなのだが。
シンガポールの映画環境は確かに作家を輩出するようなメカニズムにはないことは、2003~2004年で現地で映像の仕事に就いたことがあるので身にしみて判っている。政府も金儲けだけではなく文化的な側面からも人材育成に力を入れ出しファンドを作ったりしてみてはいたがなにせ土壌が無い。自国作品を発表しそれをどこでどれだけの集客が得られるかと考えれば産業として根付くにはまだまだ時間がかかるのだろう。そんな中でもエリック・クーやロイストン・タンといった才能も台頭し、ここ何年かは商業作品としても評価されだしてはいる。このリャオ・ジェカイ監督がその一角に加われるのかどうかは、自分のやりたい映像表現の域で自分の自己資金だけで作品を「つくってみました」という世界から、もう一歩踏み出す必要があるのだろう。
映画の環境的な部分で、作品を生み出していくことの苦労を考えれば彼のような挑戦は、その心意気や良しではある。今後の作品に期待、ということか。
「日本映画・ある視点」に出品された作品から今回選んだ1本が、すずきじゅんいち監督のドキュメンタリー『442日系部隊・アメリカ史上最強の陸軍』。第2次大戦で合衆国に忠誠を誓い戦場に送られた日系兵士たちの足跡とその知られざる戦功と悲劇を、当時のフィルムと80半ばを超えた現在の老兵のインタビューからたどって行くもの。442部隊の兵士たちには今から20年ほど前に雑誌の企画で取材したことがあって、その時の強烈な印象は今でも忘れ難い。米国民としての自負と父祖の世代の出自=アイデンティティ、家族を収容所に残し、根強いレーシズムとそれを払拭するために血であがなった戦い。そんな宿命を背負って戦中、戦後を生きてきた人たちの苦難の歴史は、当時まだ若かった自分には大きな衝撃だったことを昨日のように覚えている。今回の作品に登場する老人たちを観るにつけ、あの時取材した人たちの消息を思い起こさせられる。取材時よりさらに高齢の域に達したあのときの人たちはまだ元気にしておられるのだろうか。
当時の取材のきっかけはNHKの大河ドラマ「山河燃ゆ」(原作・山崎豊子「二つの祖国」)であったが、せっかく日系米国人の歴史にスポットを当てながら、まったくしょっぱい日本人視点の娯楽作にとどまってひどく残念な思いがしたものだ(実際アメリカの日系社会からは抗議が殺到した)。そういう意味で映画的にどうこうでなく、彼らの真実の姿をドキュメンタリーで正面から向かい合った試みにまずは敬意を表したいと思う。
多くの犠牲を払ったボージュの森でのテキサス大隊救出やブリエア、ダハウの解放という歴史的事実も日本の若い世代にぜひ知ってもらいたいと思う。
すずき監督の次回作はMIS(陸軍情報部)の語学兵として太平洋戦線に赴いた二世兵士たちがテーマだという。これで一昨年の『東洋宮武が覗いた世界』と併せて日系米国人三部作となるそうだが、語学兵に関しても個人的に442同様にインタビューしたことがあり、彼らが日本兵の遺体から収集した手紙類の実物に接し涙したこともある。日系人を通して日本人を見つめ直す意味でも大きな意義があると思う。こちらも是非期待したい。
映画祭最後の作品となったのは黒澤明生誕100年記念の「KUROSAWA魂inアジア中東」という、黒澤に影響を受けたと思われるアジア作品のアーカイブからの公開で、台湾の巨匠・王童監督の84年の作品『逃亡』(原題名「策馬入林」)。時は中国の戦国時代、野武士が跋扈し村人たちから糧食を簒奪するという背景は確かに『七人の侍』に似ているが、黒澤と違うのは野武士サイドから物語が描かれていること。襲われる村が官兵を雇い、反撃された主人公たちは散々な目にあう。主人公は村から人質に取った娘を手籠めにするがいつしか心通わせる仲になったかと思えば手痛い裏切りにあう。野武士であるのもなかなかつらいのである。映画のラストでただただ無表情に主人公の野武士を追う殺し屋のような男の存在が、時代そのものの圧力のようで不気味だ。王童監督と言えば『稲草人』『無言的丘』『香蕉天堂』『紅柿』といった台湾近現代史を描いたものしか観たことがなかったが、今回の『逃亡』は見応えある一大武侠劇で凄く楽しめた。映画祭でのこういう特集上映はありがたい。
というわけでしょっぱなに不快な政治的アクシデントがあったり、期間中通じて悪天候に見舞われた第23回の東京国際映画祭ではあったが、仕事の合間を縫ってスケジュール調整に苦心したかいあって例年以上に手ごたえのある映画に出会え、楽しい時間を過ごせた1週間であった。
2010年11月2日火曜日
週間呑みアルキスト10.11~10.31
●10月12日
ザックジャパンの第2戦となる日韓戦を会社でビールを飲みながらのテレビ観戦。なかなか見ごたえのある戦いぶりで日本代表の今後が楽しみになってくる。試合終了後『明治屋2nd』に場を移して延長戦。
●10月13日
元KS社KJ氏来社。神保町、白山通り裏の『満留賀』で蕎麦で一杯。『満留賀』の屋号は神保町でも3件ほどあるがこの店が一番小じんまりしている。店の人に屋号の由来を訊くもののあまりよくわかっていなかった。各店同士がそれほど横の連絡があるわけではないらしい。まあ、蕎麦自体はそれほどの特長もないがまずいわけでもない。肴は充実している。麦焼酎のボトルを軽く開けて『明治屋2nd』にハシゴ。
●10月14日
FO社SM氏がやっている産直お取り寄せサイトのアドバイスにと、旧知の通販評論家MR嬢を招いてのパワーランチ。MRさんはK社時代にハリウッドメジャーとの提携プロジェクトで知り合ったのだが、当時在籍していた大手家電メーカーを退社されてその後ネットビジネスで活躍されている。趣味と実益を兼ねての通販評論ブログが話題を呼んで今やその道ではちょっとしたその道の達人として知られている。場所は神楽坂の『桃仙郷』という和食屋、昔の料亭を改造したお店だが、その門構えにもかかわらず意外とリーズナブルな値段のランチが食べられる。この日のランチはそば会席、いくらを乗せたご飯がなかなかうまかった。MRさんの話はさすがに通販評論家と言うだけのことはあってなかなか参考になったが、昔のプロジェクトの思い出話がはずんでしまってSMさんの知りたいことから逸脱してしまったかもしれない。まあ、いつでもセッティングしますのでご容赦のほど。
●10月19日
元KS社のKJ氏先週に引き続き登場。九段下の蕎麦の名店『一茶庵』で軽く呑むことに。KJ氏は昨年右肩を骨折してその時のリハビリを兼ねて都心に出てきて食事したのがこのお店。そして今年再び右腕を骨折したので(本当にお払いしてもらった方がいいかもしれない)そのリハビリでゲンをかついだわけではないがはからずも同じ店に行くことになった。『一茶庵』はかつてはもう少し水道橋駅寄りにあって渋い一軒家の日本家屋だったがバブル期の再開発で現在地に移転した。現在もそこそこ美味い蕎麦屋と言ってもいいかもしれないが、昔の五色蕎麦のほうが風情もあったし蕎麦自体も今よりはレベルが高かった気がするが、単なる郷愁感がそう感じさせるのだろうか。
●10月22日
TN社KI嬢、IG社NG氏と取材打ち合わせで九段下ホテルグランドパレスの『カトレア』でランチブッフェ。ブッフェとはいえシェフがステーキを切り分けてくれるコーナーがあったり、もともと料理には定評のあるホテルだけに2400円の料金はお値ごろ。周辺の会社の人たちにも人気があるのだろう予約を入れてくる人がひきも切らず、ちょっと待たされるほどの盛況ぶりだった。とはいえランチに2400円もかけるのも滅多にない(経費で落としてもらったのだが)ので意地汚いほど料理を詰め込む。
●10月23日~30日
この日からまる1週間、東京国際映画祭。今年は結構な本数を観に行く予定を組んだのでほぼ毎日六本木に通うことに。しかも夜の上映が多いのでティ―チ・インなどを聴いているとへたすりゃ終電近くになってしまうので、なかなか飲みに行ったりができない。26日は21.00からの上映だったので『明治屋2nd』で時間をつぶしてから出かけたが、アルコールで眠気に襲われ苦労した。まあ映画祭は、気力、体調整えて観るに越したことはなし。
●10月31日
この日で映画祭も終了。最後の映画を観終わってから神保町の古本まつりを覗く。ところが人が多すぎてゆっくり本を選んでいられる状態ではない。一本裏のすずらん通りで各出版社の新刊バーゲンイベントが同時開催されていてこちらもとても混雑しているが、出版社のテントと並んで飲食店も青空販売で焼きそばやバーベキューの出店でさかんにいい匂いをさせている。たまらず串焼きにビールでちょっとしたお祭り気分にひたってしまった。さて、気がつけばはや11月、季節もいよいよ寒さを増してくる。この不景気で懐具合もお寒いがせめて身体と心は温まって帰りたいものという訳で、今年もラストスパートかけて呑みアルキとするか。
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