2010年7月13日火曜日

スペインの勝利


より強いものが勝つ。
当たり前のことだが、ことサッカーにおいてはそんなに単純でもない。最強と謳われるチームが相手の戦術の前でよもやの敗戦を喫することは往々にしてある事だ。
しかしながら7月11日、ヨハネスブルグ、サッカーシティスタジアムで行われたスペインとオランダの決勝戦はより強いものが勝つというまっとうな理屈で、まっとうな結果となってあらわれた。

試合は90分で決着がつかず、延長戦に突入し、さらにその後半に折り返してやっとイニエスタの値千金のゴールでスペインが見事に初優勝を飾った。確かに激闘であったし、手に汗握る戦いでもあった。ロッベンのGKと1対1になった局面でカシージャスの神がかり的なセーブが無ければ勝負はオランダのものだったかもしれない。それでも終わってみれば2008年のヨーロッパチャンピオンのスペインがその持てる能力、あふれるインスピレーション、美しいまでのパスワークで順当にオランダを退けたと思わざるを得ない。

オランダDF陣は序盤からハードなボディコンタクトでスペインの攻撃陣を削ってきた。解説者はオランダの厳しいディフェンスでスペインのパスを封じ、オランダ優位で試合を進めていると耳障りのいい言葉を使っていたが、実際はイエローカードが10枚も乱れ飛ぶほどの“汚い”いいかえればなりふりかまわないプレーを繰り広げた。勝利への執念といえばそれまでだが、スペインの選手たちの緩急、長短、強弱おりまぜたテクニックに対抗するにはこの“汚い”戦術を選択する以外道がなかったとも言える。さすがに前の試合から1日分ハンデがあるだけに、スペインもより疲労していたことから試合は延長にもつれたが、水族館のタコの予言を待つまでも無くスペインの勝利は至極当然だった。

バルセロナはカタルーニャであってスペインではないと、1936年のスペイン内戦以来の国内民族事情もあって、過去スペイン代表としてのモチベーションが高まろうはずも無かった。、美しいサッカーをやりながらも実績を残すことは出来なかったし、世界最高のリーガエスパニョーラの栄光はこと代表には無縁だった。ところがユース年代から世界タイトルを取ってきた今回の代表チームの偉業は、バスクもカタルーニャもなかった。ひたすら完成された芸術を崇めるかのごとく“スペイン国民”は熱狂した。
考えてみればグローバリズムに席巻される現在の世界体制の中、ヨーロッパ自体が統合しなければ国家の存在が成り立たない現状からすると、いままでの民族主義地域主義は徐々に色あせざるを得ないのかもしれない。
マドリッドやバルセロナの街頭を埋め尽くす人々の歓喜する姿を観るにつけ、スペイン代表の今回の戴冠はそんな新たな時代へのシンボリックな勝利とも言えるだろう。
だとすれば、2010年の南アフリカで成し遂げた世界一へ向けたプレーは、スポーツの枠を超えあまりにも大きな勝利だったと称賛されてしかるべきだろう。

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